【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
【アラン視点】
アランは、何が起こったのか分からなかった。いきなり生垣に引きずり込まれたかと思うと気を失い、今は薄暗い室内で椅子に縛り付けられ拘束されている。この部屋にはアラン以外おらず、他に人の気配はない。
ここに連れて来られる前にアランが最後に見たのは、ロベリアのひどく冷たい瞳だった。
(あんな表情も、できるんだ)
愛情深いロベリアがこれまで誰にも見せたことのない感情を引き出せて嬉しくなってしまう。
(本当に、ロベリアは最高だよ)
拘束されながらも、のんきにそんなことを考えてしまう。いつも危機感が足りないのは仕方がない。
(だって、話さえできれば、どうとでもなるからね)
例え相手が聖人であれ犯罪者であれ会話さえできれば、アランは相手が何を望んでいるのかなんとなく分かる。それを目の前にぶら下げると、人は簡単に考えや行動を変える。
リリーのほしいものは昔からずっと『愛情』だった。だから、ダグラスに偽の告白をしたリリーに『ロベリア、傷ついていたね。リリーは、ロベリアに嫌われてしまったね』と伝えると、リリーは簡単に壊れた。そして、そんなリリーに愛を囁くと面白いくらい懐いてくれた。
(楽しかったなぁ)
途中でロベリアとダグラスが邪魔しに来たが、次はもっと上手くやろうとアランは思った。
そんなとき、部屋の隅から声がした。
「気がついたようですね」
少しも気配を感じなかった。アランは驚きながら声のほうを見ると、部屋の隅の影から湧き出るように男が姿を現した。
黒いフードを被り、口元を黒い布で覆った男の目だけが薄暗闇の中で怪しく光っている。
「ふーん。君が、ロベリアが言っていた『法を守らない容赦なき善』? 見た目からして暗殺者か何かなの?」
黒いフードの男は、アランの質問には答えずゆっくりと顔を近づけてきた。男の目は、オオカミのような黄色に、赤が混じった不気味な色をしている。
(まぁ、暗殺者でもなんでもいっか。さぁ交渉の時間だ)
アランは、男の願望を探り始めた。もし、娘を守るためにロベリアの父である侯爵に雇われているなら金銭目的かもしれない。影にいる身だからこそ、輝かしい社会的成功を夢見ているかもしれない。男はロベリアに仕えているようなので、もしかするとこの男も『ロベリアが欲しい』可能性もある。
「ねぇ、君はどうしてロベリアに仕えているの?」
男の目が微笑むように細くなった。
「彼女は、我が太陽、我が主ですから」
男が返事をしたのでアランは『勝った』と思った。会話さえできれば、交渉ができる。交渉ができれば思い通りに操れる。
(このタイプはどう見ても、ロベリアやダグラス系じゃないから、もう失敗はしない)
アランの思考を読んだように、男は「そうですね、貴方はとても優秀で特別な存在です」と呟いた。
「貴方がこの学園をこのまま卒業して公爵を継いだら、一瞬で裏社会をまとめ上げて立派な犯罪王になっていたでしょうね。そうなってしまえば、王族ですら手が出せず、この国は腐敗していましたね」
淡々と語る男からは、なんの感情も読み取れない。
「私がここにいる理由は、貴方みたいな犯罪のタネを事前に排除するためでもあるのです。社会に出てしまえば難しくても、学園内なら内々に処罰できることもある。なにより、まだ子どもなので更生の余地があるかもしれない」
(口ぶりからして、この男、ロベリアに仕えているのではなく、学園関係者か?)
男がアランの肩に右手を置いた。
「君には更生の余地がありますかね? ねぇ、アランくん」
優しく名前を呼ばれて、アランはゾクッと寒気がした。この感覚は、つい最近、この学園の教師から感じたものと同じだった。
「お前まさかっ、ソル=ブラッ!?」
ソルの左手で、アランは口を塞がれた。
「アランくんは本当に優秀ですね。でも、優秀だからこそ、この世には『手を出してはいけない相手』がいることに、もっと早く気がつくべきでした。それはもちろん、我が太陽ロベリアさんのことですよ?」
これまでとは違いソルは、どこかうっとりとした声を出した。
「ロベリアさんの怯えた顔は、最高にそそるんですよ。あと、恐怖からくる泣き顔もグッときます。……でも、あれは良くなかった……」
急にソルの声から感情が消えた。
「アランくんが食堂で、ダグラスくんにリリーさんをけしかけたとき、ロベリアさんの瞳に浮かんだ涙は最悪でした。悲しみ涙ぐむ我が太陽を、この私に見せるなんて……」
ソルから読み取れる感情は『殺意』と『狂気』だけだった。会話はできているようで成立していない。
アランは交渉も洗脳もできない、権力や金で力ずくに従わせることもできない相手と初めて対峙した。
(あ、なるほど、これが恐怖か)
目の前の男が怖い。殺されるかもしれないという危機感から全身が自分の意思に反してカタカタと小刻みに震えている。
「さぁ、アランくん。楽しい楽しい居残り勉強のはじまりですよ。……まったく、この学園の教師には残業手当は出ないんですよ? これはもう、我が太陽から何かご褒美でもいただかないと」
ククッと低く笑うソルを見て、アランは初めて味わう恐怖に絶望した。
それなのに、心のどこかで、アランはその他大勢の普通の人間と同じように怯えることができた自身に、なぜか少しだけ安堵していることに気がついた。
ここに連れて来られる前にアランが最後に見たのは、ロベリアのひどく冷たい瞳だった。
(あんな表情も、できるんだ)
愛情深いロベリアがこれまで誰にも見せたことのない感情を引き出せて嬉しくなってしまう。
(本当に、ロベリアは最高だよ)
拘束されながらも、のんきにそんなことを考えてしまう。いつも危機感が足りないのは仕方がない。
(だって、話さえできれば、どうとでもなるからね)
例え相手が聖人であれ犯罪者であれ会話さえできれば、アランは相手が何を望んでいるのかなんとなく分かる。それを目の前にぶら下げると、人は簡単に考えや行動を変える。
リリーのほしいものは昔からずっと『愛情』だった。だから、ダグラスに偽の告白をしたリリーに『ロベリア、傷ついていたね。リリーは、ロベリアに嫌われてしまったね』と伝えると、リリーは簡単に壊れた。そして、そんなリリーに愛を囁くと面白いくらい懐いてくれた。
(楽しかったなぁ)
途中でロベリアとダグラスが邪魔しに来たが、次はもっと上手くやろうとアランは思った。
そんなとき、部屋の隅から声がした。
「気がついたようですね」
少しも気配を感じなかった。アランは驚きながら声のほうを見ると、部屋の隅の影から湧き出るように男が姿を現した。
黒いフードを被り、口元を黒い布で覆った男の目だけが薄暗闇の中で怪しく光っている。
「ふーん。君が、ロベリアが言っていた『法を守らない容赦なき善』? 見た目からして暗殺者か何かなの?」
黒いフードの男は、アランの質問には答えずゆっくりと顔を近づけてきた。男の目は、オオカミのような黄色に、赤が混じった不気味な色をしている。
(まぁ、暗殺者でもなんでもいっか。さぁ交渉の時間だ)
アランは、男の願望を探り始めた。もし、娘を守るためにロベリアの父である侯爵に雇われているなら金銭目的かもしれない。影にいる身だからこそ、輝かしい社会的成功を夢見ているかもしれない。男はロベリアに仕えているようなので、もしかするとこの男も『ロベリアが欲しい』可能性もある。
「ねぇ、君はどうしてロベリアに仕えているの?」
男の目が微笑むように細くなった。
「彼女は、我が太陽、我が主ですから」
男が返事をしたのでアランは『勝った』と思った。会話さえできれば、交渉ができる。交渉ができれば思い通りに操れる。
(このタイプはどう見ても、ロベリアやダグラス系じゃないから、もう失敗はしない)
アランの思考を読んだように、男は「そうですね、貴方はとても優秀で特別な存在です」と呟いた。
「貴方がこの学園をこのまま卒業して公爵を継いだら、一瞬で裏社会をまとめ上げて立派な犯罪王になっていたでしょうね。そうなってしまえば、王族ですら手が出せず、この国は腐敗していましたね」
淡々と語る男からは、なんの感情も読み取れない。
「私がここにいる理由は、貴方みたいな犯罪のタネを事前に排除するためでもあるのです。社会に出てしまえば難しくても、学園内なら内々に処罰できることもある。なにより、まだ子どもなので更生の余地があるかもしれない」
(口ぶりからして、この男、ロベリアに仕えているのではなく、学園関係者か?)
男がアランの肩に右手を置いた。
「君には更生の余地がありますかね? ねぇ、アランくん」
優しく名前を呼ばれて、アランはゾクッと寒気がした。この感覚は、つい最近、この学園の教師から感じたものと同じだった。
「お前まさかっ、ソル=ブラッ!?」
ソルの左手で、アランは口を塞がれた。
「アランくんは本当に優秀ですね。でも、優秀だからこそ、この世には『手を出してはいけない相手』がいることに、もっと早く気がつくべきでした。それはもちろん、我が太陽ロベリアさんのことですよ?」
これまでとは違いソルは、どこかうっとりとした声を出した。
「ロベリアさんの怯えた顔は、最高にそそるんですよ。あと、恐怖からくる泣き顔もグッときます。……でも、あれは良くなかった……」
急にソルの声から感情が消えた。
「アランくんが食堂で、ダグラスくんにリリーさんをけしかけたとき、ロベリアさんの瞳に浮かんだ涙は最悪でした。悲しみ涙ぐむ我が太陽を、この私に見せるなんて……」
ソルから読み取れる感情は『殺意』と『狂気』だけだった。会話はできているようで成立していない。
アランは交渉も洗脳もできない、権力や金で力ずくに従わせることもできない相手と初めて対峙した。
(あ、なるほど、これが恐怖か)
目の前の男が怖い。殺されるかもしれないという危機感から全身が自分の意思に反してカタカタと小刻みに震えている。
「さぁ、アランくん。楽しい楽しい居残り勉強のはじまりですよ。……まったく、この学園の教師には残業手当は出ないんですよ? これはもう、我が太陽から何かご褒美でもいただかないと」
ククッと低く笑うソルを見て、アランは初めて味わう恐怖に絶望した。
それなのに、心のどこかで、アランはその他大勢の普通の人間と同じように怯えることができた自身に、なぜか少しだけ安堵していることに気がついた。