【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
05 攻略対象者を分析します③レグリオとソル
可愛い妹の可憐な声を聞くだけで、ロベリアは自然と頬が緩んだ。
ロベリアが満面の笑みで振り返ると、そこにはリリーの他に、もう一人女生徒が立っていた。リリーは、ロベリアに抱きつき上目づかいで首をかしげる。
「お姉様も、午後の授業が終わったの?」
リリーに笑顔で頷き返しながらも、ロベリアは側に立っている女生徒から目が離せなくなっていた。
身長はリリーと同じくらいで小柄な少女だ。まだ幼さが残る顔立ちと、限りなく白に近い金髪が、お人形のような印象を与えた。この美しいプラチナブロンドの美少女にロベリアは見覚えがあった。
ロベリアの視線に気が付いたのか、リリーは女生徒を振り返る。
「この子は、私と同じクラスのレナよ」
レナと紹介された少女は、紫水晶のようにキレイな瞳を、オドオドと左右に泳がせた。そして、か細い声で「あの、あの……は、はじめまして……」と呟くとうつむいてそれきり黙り込んだ。
前世の記憶を取り戻す前なら「可愛らしいお友達ね」で済んだのに、今となってはそうもいかない。
このお人形のような美少女は、攻略対象者の一人、世紀の天才レグリオだ。
レグリオは、その類稀なる才能に目を付けられ、幼少期にたびたび誘拐されそうになったことから、性別と名前を偽り、女の子として生活している美少年だ。
このハイネ学園にも女生徒として入学し、ゲームでは、妹のリリーの同級生『レナ』として登場する。
いつも一人で絵を描いているレナだったが、レナが描いている絵が風で飛ばされてしまい、それをリリーが拾ったことで二人は友達になる。
(もうすでに、二人が知り合っているという事は、リリーはレグリオとの出会いイベントに成功したのかしら?)
レグリオは、他の攻略対象者と違い、出会いイベントに失敗すると、その後は一切ゲームに登場しない。ちなみに、イベント成功の鍵は『レグリオの絵を褒めること』だ。
リリーは、ロベリアから離れてレナの肩に手を置くと「レナって、とっても絵が上手なの」と、天使のような笑みを浮かべた。その言葉で、レナは頬を赤らめ、またうつむいてしまう。
(この様子じゃ、イベントは大成功しているわね)
こんな風に、レナのことを女の子だと思っているリリーは、ゲームのストーリーでは、その後もレナと友達として親しくなっていく。
ある日、レナに絵のモデルになってほしいと頼まれたリリーは『女の子同士だし』と気楽に引き受け、その絵が完成した日にレナに告白されキスされる。
そこからは、まるで美少女同士の恋愛のような倒錯的な世界が繰り広げられるし、レナの正体がレグリオだと分かってからは、美少年とイチャイチャしたり甘えられたりと、ショタ好きにはたまらない展開になっていく。
ちなみに、レグリオの裏ルートでは、他の男性とも仲が良いリリーを見て、レグリオは「どうせ、僕なんて……」とリリーと距離を置こうとする。
そんなレグリオにショックを受けたリリーは、強引に告白してレグリオが自分から離れないようにするので、『ショタに愛されたい人は表。ショタを愛したい人は裏』という感じだった。
(うーん、レグリオルートでは、リリーはひどい目に合わないし、ロベリアなんてほとんど出てこないのよねぇ。だったら、あまり警戒しなくても大丈夫かしら?)
そんなことを考えていると、リリーに制服の袖を引っ張られた。
「ね? いいでしょ、お姉様」
「うん?」
ちゃんと話を聞いていなかったので、聞き返したつもりがリリーは肯定と受け取ったようで、「やったー!」と飛び跳ねた。
「じゃあ、レナ。今度、お姉様と私の絵を描いてね! 約束よ」
「……う、うん」
レナは、一生懸命コクコクと頷くと、ロベリアに向かってペコリと頭を下げた。正体を知っているのに、どこをどう見ても人見知りな美少女にしか見えない。
「……可愛い」
思わず漏れてしまった言葉に、リリーは不満げに頬を膨らませた。
「お姉様、私は?」
「もちろん、リリーは世界で一番可愛いわよ! 大好き、愛してるわ」
ロベリアがリリーを抱きしめると、機嫌が直ったのかリリーがクスッと笑う。ふと、レナを見ると、顔を真っ赤にしてこちらを凝視していた。いくら美少女に見えても、中身は少年。もしかすると、女の子同士のイチャイチャを見て驚かせてしまったのかもしれない。
ロベリアは、咳払いすると、抱きしめていたリリーを開放した。
「レナさん、妹をよろしくね」
そう言い残して、ロベリアは、今さらながらにできるお姉さんを装い、その場から立ち去った。
*
女子寮の自室に戻ったロベリアは、レグリオのことをノートに書き込んだ。
「やっぱり、本人に会うといろいろと思い出すわね」
こうなったら、最後の一人、ソルにも会ったほうがいいのかもしれない。ただ、気を付けなければならないのは、ソルは只者ではないということ。
彼は、『太陽の影』と呼ばれる国王にのみ仕える護衛部隊に所属していた。そして、この部隊は表向きは王の護衛を仕事としているが、裏では他国の情報収集から暗殺まで行う、忍びのような役目を担っている。
ソルはそんな部隊のエリートだったが、任務中に利き腕を負傷し、前線から身を引くことになった。しかし、その腕を買われて今は身分を隠し、ただの教師として、王族も通うこの学園の警護と監視を内密に任されている。
要するに、ソルは元暗殺者だ。会いたいか会いたくないかで言うと、絶対に会いたくない。
(ソルに会わずに、ソルルートを思い出すには……)
ロベリアの頭に『鍵の壊れた部屋』という言葉が浮かんだ。
「あっ、そうそう!」
ここがゲームと同じ世界なら、この学園には、鍵が壊れてそのままになっている部屋があるはずだった。
ゲームの中盤では、その部屋に主人公のリリーと攻略対象者の男性が閉じ込められてしまい、ご都合主義にも媚薬が置いてあったりして、薬のせいで朦朧とした二人はお互いを激しく求めあうというイベントが発生する。
ソルルートでは、この部屋から全てが始まる。発生条件は、他の男性の好感度を上げずに、鍵の壊れた部屋にリリーが一人で行くこと。
そこで、ソルと出会い、それとは知らずうっかり媚薬をぶちまけたリリーは、ほぼ初対面のソルと身体の関係を持ってしまう。そこから、二人はその部屋で逢瀬を重ねることになる。
(ここまでは思い出せても、ソルのエンディングが思い出せないわ……。うーん、『鍵の壊れた部屋』を見つけたら、ソル本人に会わなくてもソルルートをもっと詳しく思い出せるかもしれないわね)
それに、イベントが発生する部屋を先に見つけておけば、大切なリリーに『あの部屋には、絶対に入ってはダメよ』と事前に忠告することもできる。
ロベリアは椅子から立ち上がると、自室を出て『鍵の壊れた部屋』を探し始めた。
ロベリアが満面の笑みで振り返ると、そこにはリリーの他に、もう一人女生徒が立っていた。リリーは、ロベリアに抱きつき上目づかいで首をかしげる。
「お姉様も、午後の授業が終わったの?」
リリーに笑顔で頷き返しながらも、ロベリアは側に立っている女生徒から目が離せなくなっていた。
身長はリリーと同じくらいで小柄な少女だ。まだ幼さが残る顔立ちと、限りなく白に近い金髪が、お人形のような印象を与えた。この美しいプラチナブロンドの美少女にロベリアは見覚えがあった。
ロベリアの視線に気が付いたのか、リリーは女生徒を振り返る。
「この子は、私と同じクラスのレナよ」
レナと紹介された少女は、紫水晶のようにキレイな瞳を、オドオドと左右に泳がせた。そして、か細い声で「あの、あの……は、はじめまして……」と呟くとうつむいてそれきり黙り込んだ。
前世の記憶を取り戻す前なら「可愛らしいお友達ね」で済んだのに、今となってはそうもいかない。
このお人形のような美少女は、攻略対象者の一人、世紀の天才レグリオだ。
レグリオは、その類稀なる才能に目を付けられ、幼少期にたびたび誘拐されそうになったことから、性別と名前を偽り、女の子として生活している美少年だ。
このハイネ学園にも女生徒として入学し、ゲームでは、妹のリリーの同級生『レナ』として登場する。
いつも一人で絵を描いているレナだったが、レナが描いている絵が風で飛ばされてしまい、それをリリーが拾ったことで二人は友達になる。
(もうすでに、二人が知り合っているという事は、リリーはレグリオとの出会いイベントに成功したのかしら?)
レグリオは、他の攻略対象者と違い、出会いイベントに失敗すると、その後は一切ゲームに登場しない。ちなみに、イベント成功の鍵は『レグリオの絵を褒めること』だ。
リリーは、ロベリアから離れてレナの肩に手を置くと「レナって、とっても絵が上手なの」と、天使のような笑みを浮かべた。その言葉で、レナは頬を赤らめ、またうつむいてしまう。
(この様子じゃ、イベントは大成功しているわね)
こんな風に、レナのことを女の子だと思っているリリーは、ゲームのストーリーでは、その後もレナと友達として親しくなっていく。
ある日、レナに絵のモデルになってほしいと頼まれたリリーは『女の子同士だし』と気楽に引き受け、その絵が完成した日にレナに告白されキスされる。
そこからは、まるで美少女同士の恋愛のような倒錯的な世界が繰り広げられるし、レナの正体がレグリオだと分かってからは、美少年とイチャイチャしたり甘えられたりと、ショタ好きにはたまらない展開になっていく。
ちなみに、レグリオの裏ルートでは、他の男性とも仲が良いリリーを見て、レグリオは「どうせ、僕なんて……」とリリーと距離を置こうとする。
そんなレグリオにショックを受けたリリーは、強引に告白してレグリオが自分から離れないようにするので、『ショタに愛されたい人は表。ショタを愛したい人は裏』という感じだった。
(うーん、レグリオルートでは、リリーはひどい目に合わないし、ロベリアなんてほとんど出てこないのよねぇ。だったら、あまり警戒しなくても大丈夫かしら?)
そんなことを考えていると、リリーに制服の袖を引っ張られた。
「ね? いいでしょ、お姉様」
「うん?」
ちゃんと話を聞いていなかったので、聞き返したつもりがリリーは肯定と受け取ったようで、「やったー!」と飛び跳ねた。
「じゃあ、レナ。今度、お姉様と私の絵を描いてね! 約束よ」
「……う、うん」
レナは、一生懸命コクコクと頷くと、ロベリアに向かってペコリと頭を下げた。正体を知っているのに、どこをどう見ても人見知りな美少女にしか見えない。
「……可愛い」
思わず漏れてしまった言葉に、リリーは不満げに頬を膨らませた。
「お姉様、私は?」
「もちろん、リリーは世界で一番可愛いわよ! 大好き、愛してるわ」
ロベリアがリリーを抱きしめると、機嫌が直ったのかリリーがクスッと笑う。ふと、レナを見ると、顔を真っ赤にしてこちらを凝視していた。いくら美少女に見えても、中身は少年。もしかすると、女の子同士のイチャイチャを見て驚かせてしまったのかもしれない。
ロベリアは、咳払いすると、抱きしめていたリリーを開放した。
「レナさん、妹をよろしくね」
そう言い残して、ロベリアは、今さらながらにできるお姉さんを装い、その場から立ち去った。
*
女子寮の自室に戻ったロベリアは、レグリオのことをノートに書き込んだ。
「やっぱり、本人に会うといろいろと思い出すわね」
こうなったら、最後の一人、ソルにも会ったほうがいいのかもしれない。ただ、気を付けなければならないのは、ソルは只者ではないということ。
彼は、『太陽の影』と呼ばれる国王にのみ仕える護衛部隊に所属していた。そして、この部隊は表向きは王の護衛を仕事としているが、裏では他国の情報収集から暗殺まで行う、忍びのような役目を担っている。
ソルはそんな部隊のエリートだったが、任務中に利き腕を負傷し、前線から身を引くことになった。しかし、その腕を買われて今は身分を隠し、ただの教師として、王族も通うこの学園の警護と監視を内密に任されている。
要するに、ソルは元暗殺者だ。会いたいか会いたくないかで言うと、絶対に会いたくない。
(ソルに会わずに、ソルルートを思い出すには……)
ロベリアの頭に『鍵の壊れた部屋』という言葉が浮かんだ。
「あっ、そうそう!」
ここがゲームと同じ世界なら、この学園には、鍵が壊れてそのままになっている部屋があるはずだった。
ゲームの中盤では、その部屋に主人公のリリーと攻略対象者の男性が閉じ込められてしまい、ご都合主義にも媚薬が置いてあったりして、薬のせいで朦朧とした二人はお互いを激しく求めあうというイベントが発生する。
ソルルートでは、この部屋から全てが始まる。発生条件は、他の男性の好感度を上げずに、鍵の壊れた部屋にリリーが一人で行くこと。
そこで、ソルと出会い、それとは知らずうっかり媚薬をぶちまけたリリーは、ほぼ初対面のソルと身体の関係を持ってしまう。そこから、二人はその部屋で逢瀬を重ねることになる。
(ここまでは思い出せても、ソルのエンディングが思い出せないわ……。うーん、『鍵の壊れた部屋』を見つけたら、ソル本人に会わなくてもソルルートをもっと詳しく思い出せるかもしれないわね)
それに、イベントが発生する部屋を先に見つけておけば、大切なリリーに『あの部屋には、絶対に入ってはダメよ』と事前に忠告することもできる。
ロベリアは椅子から立ち上がると、自室を出て『鍵の壊れた部屋』を探し始めた。