【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
39 リリーの幸せ
ある日突然、カマルとリリーの婚約が発表された。正式な発表はカマルの卒業後だったが、この学園内で知らない者は一人もいないほどすでに広まりきっている。
ロベリアは、休日の庭園でベンチに並んで座るリリーを見た。
「リリーってば、いつの間に?」
そんな話を一度もリリーから聞いたことがなかった。リリーはロベリアの手を握ると「昨日決まったの」と無邪気に微笑む。
「え!? 昨日?」
「うん、慌ただしくて、お姉様にすぐに報告できなくてごめんね」
ニコニコしているリリーを見ながら、ロベリアはあまりの展開の速さに不安になった。
(これっていつの間にか、カマルの表ルート、王道ピュアストーリーが進んだってことなのかしら? でも、リリーは、カマルのことを嫌がっていたはずなのに?)
リリーの白い手に、ロベリアは自身の手を重ねた。
「本当に大丈夫なの? 無理していない? カマル殿下と一緒になるということは、貴女がいつかこの国の王妃になるということよ?」
「うん、ちゃんと分かっているわ。これは、私なりに真剣に考えた結果なの」
リリーは、ロベリアの肩にコツンと頭を乗せた。
「お姉様は、私のために不思議な記憶を使って、私を危険なことからずっと守ってくれていたんでしょう? だったら、次は私がお姉様を守る番だわ。それに……」
リリーの視線の先には、カマルがいた。カマルの背後にはダグラスも控えている。
「カマルと話して、私もやってみたいことが見つかったの」
「やってみたいこと?」
リリーの翡翠の瞳は、青く広がる空に向けられている。
「私ね、貴族の女性がもっと自由に生きられる世の中にしたいの。高位の男性との結婚だけが目標じゃなくて、誰でも働けたり、結婚しなくても良かったりできるようにしたい。私にはお姉様がいてくれたから幸せだったけど、お姉様のような存在がいない子たちにも幸せになるチャンスがあるような社会をつくりたいの」
リリーは向かいのベンチに座り、絵を描いていたレナに手を振った。レナはニコリと微笑むと、リリーに手を振り返す。
「レナも一緒よ。レナは卒業したら、王宮に仕えるんだって」
「そうなのね。貴女が幸せだったら、それで良いけど……」
「大丈夫よ、私はもう幸せだから。今までずっと、お姉様にたくさん幸せにしてもらったから。今度は私が誰かを幸せにするために頑張りたいの」
リリーの表情は、とても晴れ晴れとしていた。
「私は、リリーの選んだ道を信じるわ。これから何が起こっても、必ずリリーの側にいる。私はずっと貴女の味方よ」
「お姉様、ありがとう!」
リリーは、庭園の花々を優しく揺らす風を受け、心地よさそうに目を細めた。
「お姉さま。もしいつか、私に子どもができたらね、毎日『愛しているわ、大好きよ』って言ってあげるの」
リリーは元気いっぱいに立ち上がった。
「だって、お姉さまが私にそうしてくれたから」
こちらに両手を差し出すと、リリーは天使のような笑みを浮かべた。
「ありがとう、お姉さま。ずっとずっと大好きよ」
ロベリアはリリーの手を取り立ち上がると、この世界でできた大切な宝物を抱きしめた。
「私こそ、ありがとう、リリー。私もずっとずっと大好きよ」
微笑み合うと、なぜか涙が溢れてきた。リリーの瞳にも涙が浮かんでいる。
「不思議だわ。幸せって泣けるのね」
リリーが涙をぬぐいながらそう呟いた。
「二人とも、話は終わったかい?」
そう言いながら近づいてきたカマルは、ニコリとリリーに微笑みかけた。
「なるほどね。君が言っていた通り、普段は口が悪いくせに、ロベリアの前でだけ猫をかぶっているリリーはバカみたいだな」
カマルの言葉に頬をピクピクさせたリリーは「カマル、あっちに行ってて」と睨みつけている。昨日婚約が決まったばかりとは思えないくらい、二人の間には砕けた空気が漂っていた。
(私が知っている18禁乙女ゲーム『悠久の檻(おり)』のカマルエンディングではないみたい?)
驚いてしまったが、そもそも悪役令嬢ロベリアがダグラスと付き合っているので、もうこの世界にゲームの知識は通用しないのかもしれない。
カマルはロベリアに向き直ると「そういう訳だから、ロベリア、君には私の婚約者リリーのサポートをお願いしたい。将来的には、腹心のダグラスと婚姻して、夫婦で私たちを支えてくれ。君たちの婚姻は私が保障するよ」と言ってくれた。
驚いてダグラスを見ると、ダグラスは幸せそうに頬を赤く染めている。
(もしかして、リリーは私とダグラス様が結婚できるように、王妃になる覚悟を……)
そう思うと胸がいっぱいになり涙が溢れた。
「ありがとう、ございます」
ロベリアがなんとかお礼を言うと、リリーは嬉しそうにカマルに微笑みかけた。
「ありがとう、カマル!」
「どういたしまして」
微笑み合う二人は、とてもお似合いだ。
(これがリリーが見つけた幸せなのね)
ポロポロと溢れるロベリアの涙は、いつの間にか側にきたダグラスがそっとハンカチでぬぐってくれた。それを見たリリーが「お姉様……泣かないで」と涙を浮かべる。
カマルが「もらい泣きか? 意外と感受性が豊かなんだな」とリリーにハンカチを渡した。それをリリーは「うっさいわね」と言いながら乱暴に受け取る。
(リリーの涙をぬぐうのは、もう私の役目ではないのね)
そのことが、本当に嬉しくて幸せで、そして、ロベリアをほんの少しだけ寂しい気持ちにさせた。
ロベリアは、休日の庭園でベンチに並んで座るリリーを見た。
「リリーってば、いつの間に?」
そんな話を一度もリリーから聞いたことがなかった。リリーはロベリアの手を握ると「昨日決まったの」と無邪気に微笑む。
「え!? 昨日?」
「うん、慌ただしくて、お姉様にすぐに報告できなくてごめんね」
ニコニコしているリリーを見ながら、ロベリアはあまりの展開の速さに不安になった。
(これっていつの間にか、カマルの表ルート、王道ピュアストーリーが進んだってことなのかしら? でも、リリーは、カマルのことを嫌がっていたはずなのに?)
リリーの白い手に、ロベリアは自身の手を重ねた。
「本当に大丈夫なの? 無理していない? カマル殿下と一緒になるということは、貴女がいつかこの国の王妃になるということよ?」
「うん、ちゃんと分かっているわ。これは、私なりに真剣に考えた結果なの」
リリーは、ロベリアの肩にコツンと頭を乗せた。
「お姉様は、私のために不思議な記憶を使って、私を危険なことからずっと守ってくれていたんでしょう? だったら、次は私がお姉様を守る番だわ。それに……」
リリーの視線の先には、カマルがいた。カマルの背後にはダグラスも控えている。
「カマルと話して、私もやってみたいことが見つかったの」
「やってみたいこと?」
リリーの翡翠の瞳は、青く広がる空に向けられている。
「私ね、貴族の女性がもっと自由に生きられる世の中にしたいの。高位の男性との結婚だけが目標じゃなくて、誰でも働けたり、結婚しなくても良かったりできるようにしたい。私にはお姉様がいてくれたから幸せだったけど、お姉様のような存在がいない子たちにも幸せになるチャンスがあるような社会をつくりたいの」
リリーは向かいのベンチに座り、絵を描いていたレナに手を振った。レナはニコリと微笑むと、リリーに手を振り返す。
「レナも一緒よ。レナは卒業したら、王宮に仕えるんだって」
「そうなのね。貴女が幸せだったら、それで良いけど……」
「大丈夫よ、私はもう幸せだから。今までずっと、お姉様にたくさん幸せにしてもらったから。今度は私が誰かを幸せにするために頑張りたいの」
リリーの表情は、とても晴れ晴れとしていた。
「私は、リリーの選んだ道を信じるわ。これから何が起こっても、必ずリリーの側にいる。私はずっと貴女の味方よ」
「お姉様、ありがとう!」
リリーは、庭園の花々を優しく揺らす風を受け、心地よさそうに目を細めた。
「お姉さま。もしいつか、私に子どもができたらね、毎日『愛しているわ、大好きよ』って言ってあげるの」
リリーは元気いっぱいに立ち上がった。
「だって、お姉さまが私にそうしてくれたから」
こちらに両手を差し出すと、リリーは天使のような笑みを浮かべた。
「ありがとう、お姉さま。ずっとずっと大好きよ」
ロベリアはリリーの手を取り立ち上がると、この世界でできた大切な宝物を抱きしめた。
「私こそ、ありがとう、リリー。私もずっとずっと大好きよ」
微笑み合うと、なぜか涙が溢れてきた。リリーの瞳にも涙が浮かんでいる。
「不思議だわ。幸せって泣けるのね」
リリーが涙をぬぐいながらそう呟いた。
「二人とも、話は終わったかい?」
そう言いながら近づいてきたカマルは、ニコリとリリーに微笑みかけた。
「なるほどね。君が言っていた通り、普段は口が悪いくせに、ロベリアの前でだけ猫をかぶっているリリーはバカみたいだな」
カマルの言葉に頬をピクピクさせたリリーは「カマル、あっちに行ってて」と睨みつけている。昨日婚約が決まったばかりとは思えないくらい、二人の間には砕けた空気が漂っていた。
(私が知っている18禁乙女ゲーム『悠久の檻(おり)』のカマルエンディングではないみたい?)
驚いてしまったが、そもそも悪役令嬢ロベリアがダグラスと付き合っているので、もうこの世界にゲームの知識は通用しないのかもしれない。
カマルはロベリアに向き直ると「そういう訳だから、ロベリア、君には私の婚約者リリーのサポートをお願いしたい。将来的には、腹心のダグラスと婚姻して、夫婦で私たちを支えてくれ。君たちの婚姻は私が保障するよ」と言ってくれた。
驚いてダグラスを見ると、ダグラスは幸せそうに頬を赤く染めている。
(もしかして、リリーは私とダグラス様が結婚できるように、王妃になる覚悟を……)
そう思うと胸がいっぱいになり涙が溢れた。
「ありがとう、ございます」
ロベリアがなんとかお礼を言うと、リリーは嬉しそうにカマルに微笑みかけた。
「ありがとう、カマル!」
「どういたしまして」
微笑み合う二人は、とてもお似合いだ。
(これがリリーが見つけた幸せなのね)
ポロポロと溢れるロベリアの涙は、いつの間にか側にきたダグラスがそっとハンカチでぬぐってくれた。それを見たリリーが「お姉様……泣かないで」と涙を浮かべる。
カマルが「もらい泣きか? 意外と感受性が豊かなんだな」とリリーにハンカチを渡した。それをリリーは「うっさいわね」と言いながら乱暴に受け取る。
(リリーの涙をぬぐうのは、もう私の役目ではないのね)
そのことが、本当に嬉しくて幸せで、そして、ロベリアをほんの少しだけ寂しい気持ちにさせた。