【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
06 鍵の壊れた部屋
ゲームの背景を思い出しながら、ロベリアは学園内を歩き回った。その途中でカマル王子を見かけたので、柱の陰に隠れて見つからないようにやり過ごす。
「鍵が壊れた部屋、ないわね……」
見つからないので、仕方なくあきらめて来た道を戻ろうとすると、ロベリアの後ろにカマル王子が立っていた。
「ひっ」
思わず小さな悲鳴が出てしまったが、カマルは気にした様子はない。
「君は、この前ダグラスに……。確かロベリア、だったかな? 何か探しているの?」
ロベリアを見つめる青い瞳が、優しそうに細められた。
「いえ、何も……」
驚きすぎて平静を取り繕うこともできない。とにかくこの場から離れようと下がると、いつの間に回り込まれたのか、ロベリアの背後にダグラスが立っていた。とたんに胸はときめいたが、退路を断たれ逃げ道がないことに絶望する。
カマルが一歩、近づいてきた。
「ロベリア。君と少し話してみたかったんだ。これを片付けるから、よければそこで少し待っていて欲しい」
よく見れば、カマルもダグラスも両手に箱を抱えていた。ロベリアが『なんの箱かしら?』と不思議に思っていると顔に出ていたのか、カマルが「薬品の授業だったんだ」と教えてくれる。
ダグラスは箱を抱えたまま、器用に右手にある部屋の扉を開けると、カマルに「どうぞ」と頭を下げた。
その扉の先の景色を見て、ロベリアは息をのんだ。カマルとダグラスが授業で使った薬品を片付けに来たこの部屋こそ、あの鍵が壊れた部屋そのものだった。
(あの部屋は、授業で使う薬品置き場だったのね。道理で不自然に媚薬が置いてあったわけだわ。でも、薬品置き場だったとしても、違法薬物の媚薬がそこらへんにポンと置かれているのはおかしいわね)
ロベリアがそんなことを考えていると、カマルが部屋に入り、続いてダグラスが部屋に入っていった。ダグラスが抑えていた扉から手を離すと扉はゆっくりと閉まっていく。
「あ、そこの鍵、壊れて!」
とっさに叫んで扉を抑えたが、予想以上に重い扉に身体を押されて、ロベリアも部屋の中へと入ってしまった。そして、完全に閉まった扉はガチャリと嫌な音を立てる。
「え? 嘘、閉まっちゃったの?」
ロベリアが、ドアノブをガチャガチャ回しても扉は開かない。一人で慌てるロベリアの様子を、カマルとダグラスが不思議そうに見ている。
「あの、私、ここの扉の鍵が壊れているって聞いて……」
顔を見合わせた男性二人は、それぞれに荷物を置くと、「まさか」と笑いながら扉を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。
ガタイの良いダグラスが扉に体当たりしたがびくともしなかった。
「カマル様、閉じ込められてしまいました」
「そうだね」
少しもあせっていない二人を見て、ロベリアも冷静になることができた。
(まぁ閉じ込められただけだし、ここに都合よく媚薬があるわけでもないし……)
部屋の中をぐるりと見回すと、机の上に不自然に一本だけ小瓶が置いてあった。
(ん? この小瓶って、まさか……そんなわけないよね?)
ロベリアが近づいて小瓶を確認しようとすると、急に「ロベリア」と名を呼ばれたので、「ひゃあ!?」と盛大に驚いた。驚いた勢いで机にぶつかってしまい、小瓶が床に落ちてカシャンと割れる。
(ああっ!? 割れちゃった!)
ロベリアが勢いよく振り返るとカマルが「すまない、あまり薬品にはふれないほうが良いと言おうと思ったんだが手遅れだね」と苦笑した。
「す、すみません!」
慌てて割れた小瓶を片付けようとするロベリアの手をカマルが止めた。
「さわってはいけない。ケガをするし、何よりこれは匂いからして媚薬のようだから、できる限り息をとめてここから離れて」
「えっ!? 媚薬!?」
青ざめたロベリアは、両手で口を押えると、部屋の隅へと走った。
(ちょっと待って嘘でしょ!? ゲームの媚薬イベントが主人公じゃなくて、悪役令嬢の私に起こってしまっているんだけど!?)
このままでは、とんでもないことになってしまう。
カマルは少しも慌てることなく部屋を見渡し、はめ殺しになっている窓を指さした。
「ダグラス、あの窓を開けてくれ」
開けることのできないはめ殺しの窓を開けろと言われたダグラスは、無言で部屋の中の椅子を持ち上げると、なんの躊躇もなく力いっぱい窓に叩きつけた。ダグラスの攻撃を受けた窓は、ガラスが割れ、窓枠が歪んでいる。
割れた窓から外の空気が入り、すぐに部屋の中の薬品の匂いを薄めてくれた。
カマルは、「換気はこれでよし」と言うと、素手で割れ散った小瓶の破片を集め始めた。そして、部屋にあった小汚い雑巾でこぼれた媚薬を丁寧にふき取る。
「殿下、この袋、使えますか?」
「いいね」
ダグラスが持ってきた袋に、ガラス片と雑巾を入れると、カマルは袋の口をきつく縛った。
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、ダグラスは知っているだろうけど、私は媚薬や毒はめったに効かないから。ダグラス、お前はどうだ?」
「私は窓を割るまで息を止めていたので大丈夫です」
淡々と媚薬を処理した二人を見て、ロベリアは感動した。
(すごいわ! 鍵の壊れた部屋にダグラス様がいたら、イベントすら発生しなかった! カマル殿下も優秀だけど、さすがダグラス様!)
カマルがこちらを振り向き、ロベリアに右手を差し出した。
「君は大丈夫?」
「あ、はい……」
と答えたものの、膝に力が入らずその場に座り込んでしまった。頭がぼんやりとしている。
「あれ?」
「少しだけ媚薬を吸ってしまったようだね。まぁこれくらいなら媚薬の症状はでないと思うけど」
カマルは「ダグラス」とダグラスを呼ぶ。
「はい」
「念のために、ロベリアを保健室に運んであげて」
「はい……え?」
カマルの指示に常に「はい」としか答えないダグラスが珍しく戸惑っている。
「どうしたの? まさか、か弱いご令嬢をここに置いていくつもり?」
「いえ」
「じゃあ、王子である私に令嬢を抱えて保健室まで運べと?」
「いえ、私が運びます」
ダグラスは何度がためらったあとに、硬い声で「失礼します」と言いながらロベリアを抱きかかえた。
(これは……お、お、お姫様だっこ!)
ダグラスの逞しい腕の中でロベリアが固まっていると、カマルが「あれ? 鍵が開いている。さっきは確かに閉まっていたのに」と不思議そうにしている。
「まぁいい。不審な点は多いが、ダグラスはとりあえず、ロベリアを保健室に連れて行ってくれ」
「はい」
「私は媚薬の件を先生に報告しておくよ」
「はい」
歩き出したダグラスの腕の中でロベリアは気を失いそうになっていた。
(何これ……こ、こんなことが起こって良いの? なんだか、頭がボーッとするし……はっ、これは夢なのね)
この世界がいくら乙女ゲームにそっくりだといっても、さすがにこれは都合が良すぎる。
(なんて素敵な夢なのかしら!)
ロベリアは、うっとりしながら、そっとダグラスの厚い胸板に頭を寄せた。そのとたんにダグラスが「ゴ、ガホッ!」とむせる。
(そっか、ダグラス様って女性が苦手だものね。フフ、リアルな夢。夢なんだし、抱きついちゃえ)
現実ではセクハラになってしまうが、夢ならやりたい放題だ。
ロベリアは、ダグラスの首に両手を回すとギュッと抱きついた。とたんに、ダグラスの足がふらつき、ロベリアの身体が傾く。
「きゃっ!」
ロベリアが小さく悲鳴を上げると、すぐに体勢を整えたダグラスの腕の中にロベリアは元通り綺麗に収まった。驚いたおかげで、ロベリアは頭がスッキリしたが、まだお姫様だっこされている。
「あれ……ダグラス様?」
「はい」
ロベリアがおそるおそる声をかけると、ダグラスの硬い声が返ってくる。長い前髪に隠れてダグラスの表情は読み取れない。
「え? ええ? これはいったい、どういうこと?」
ロベリアが動揺していると、ダグラスは冷静に現状を説明してくれた。
「ロベリア様は、多少媚薬を吸いこんでしまったため、その、記憶に混乱が生じたようです」
「あ……そ、ですか……」
夢だと思ってセクハラしてしまったが、どうやら全て現実だったようだ。
(セクハラは犯罪よ! ダグラス様に訴えられたらどうするの!?)
ロベリアが涙目になりながら「わ、私ったら、申し訳ありません」と謝罪すると、ダグラスは「お気になさらず」と紳士に許してくれた。
「鍵が壊れた部屋、ないわね……」
見つからないので、仕方なくあきらめて来た道を戻ろうとすると、ロベリアの後ろにカマル王子が立っていた。
「ひっ」
思わず小さな悲鳴が出てしまったが、カマルは気にした様子はない。
「君は、この前ダグラスに……。確かロベリア、だったかな? 何か探しているの?」
ロベリアを見つめる青い瞳が、優しそうに細められた。
「いえ、何も……」
驚きすぎて平静を取り繕うこともできない。とにかくこの場から離れようと下がると、いつの間に回り込まれたのか、ロベリアの背後にダグラスが立っていた。とたんに胸はときめいたが、退路を断たれ逃げ道がないことに絶望する。
カマルが一歩、近づいてきた。
「ロベリア。君と少し話してみたかったんだ。これを片付けるから、よければそこで少し待っていて欲しい」
よく見れば、カマルもダグラスも両手に箱を抱えていた。ロベリアが『なんの箱かしら?』と不思議に思っていると顔に出ていたのか、カマルが「薬品の授業だったんだ」と教えてくれる。
ダグラスは箱を抱えたまま、器用に右手にある部屋の扉を開けると、カマルに「どうぞ」と頭を下げた。
その扉の先の景色を見て、ロベリアは息をのんだ。カマルとダグラスが授業で使った薬品を片付けに来たこの部屋こそ、あの鍵が壊れた部屋そのものだった。
(あの部屋は、授業で使う薬品置き場だったのね。道理で不自然に媚薬が置いてあったわけだわ。でも、薬品置き場だったとしても、違法薬物の媚薬がそこらへんにポンと置かれているのはおかしいわね)
ロベリアがそんなことを考えていると、カマルが部屋に入り、続いてダグラスが部屋に入っていった。ダグラスが抑えていた扉から手を離すと扉はゆっくりと閉まっていく。
「あ、そこの鍵、壊れて!」
とっさに叫んで扉を抑えたが、予想以上に重い扉に身体を押されて、ロベリアも部屋の中へと入ってしまった。そして、完全に閉まった扉はガチャリと嫌な音を立てる。
「え? 嘘、閉まっちゃったの?」
ロベリアが、ドアノブをガチャガチャ回しても扉は開かない。一人で慌てるロベリアの様子を、カマルとダグラスが不思議そうに見ている。
「あの、私、ここの扉の鍵が壊れているって聞いて……」
顔を見合わせた男性二人は、それぞれに荷物を置くと、「まさか」と笑いながら扉を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。
ガタイの良いダグラスが扉に体当たりしたがびくともしなかった。
「カマル様、閉じ込められてしまいました」
「そうだね」
少しもあせっていない二人を見て、ロベリアも冷静になることができた。
(まぁ閉じ込められただけだし、ここに都合よく媚薬があるわけでもないし……)
部屋の中をぐるりと見回すと、机の上に不自然に一本だけ小瓶が置いてあった。
(ん? この小瓶って、まさか……そんなわけないよね?)
ロベリアが近づいて小瓶を確認しようとすると、急に「ロベリア」と名を呼ばれたので、「ひゃあ!?」と盛大に驚いた。驚いた勢いで机にぶつかってしまい、小瓶が床に落ちてカシャンと割れる。
(ああっ!? 割れちゃった!)
ロベリアが勢いよく振り返るとカマルが「すまない、あまり薬品にはふれないほうが良いと言おうと思ったんだが手遅れだね」と苦笑した。
「す、すみません!」
慌てて割れた小瓶を片付けようとするロベリアの手をカマルが止めた。
「さわってはいけない。ケガをするし、何よりこれは匂いからして媚薬のようだから、できる限り息をとめてここから離れて」
「えっ!? 媚薬!?」
青ざめたロベリアは、両手で口を押えると、部屋の隅へと走った。
(ちょっと待って嘘でしょ!? ゲームの媚薬イベントが主人公じゃなくて、悪役令嬢の私に起こってしまっているんだけど!?)
このままでは、とんでもないことになってしまう。
カマルは少しも慌てることなく部屋を見渡し、はめ殺しになっている窓を指さした。
「ダグラス、あの窓を開けてくれ」
開けることのできないはめ殺しの窓を開けろと言われたダグラスは、無言で部屋の中の椅子を持ち上げると、なんの躊躇もなく力いっぱい窓に叩きつけた。ダグラスの攻撃を受けた窓は、ガラスが割れ、窓枠が歪んでいる。
割れた窓から外の空気が入り、すぐに部屋の中の薬品の匂いを薄めてくれた。
カマルは、「換気はこれでよし」と言うと、素手で割れ散った小瓶の破片を集め始めた。そして、部屋にあった小汚い雑巾でこぼれた媚薬を丁寧にふき取る。
「殿下、この袋、使えますか?」
「いいね」
ダグラスが持ってきた袋に、ガラス片と雑巾を入れると、カマルは袋の口をきつく縛った。
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、ダグラスは知っているだろうけど、私は媚薬や毒はめったに効かないから。ダグラス、お前はどうだ?」
「私は窓を割るまで息を止めていたので大丈夫です」
淡々と媚薬を処理した二人を見て、ロベリアは感動した。
(すごいわ! 鍵の壊れた部屋にダグラス様がいたら、イベントすら発生しなかった! カマル殿下も優秀だけど、さすがダグラス様!)
カマルがこちらを振り向き、ロベリアに右手を差し出した。
「君は大丈夫?」
「あ、はい……」
と答えたものの、膝に力が入らずその場に座り込んでしまった。頭がぼんやりとしている。
「あれ?」
「少しだけ媚薬を吸ってしまったようだね。まぁこれくらいなら媚薬の症状はでないと思うけど」
カマルは「ダグラス」とダグラスを呼ぶ。
「はい」
「念のために、ロベリアを保健室に運んであげて」
「はい……え?」
カマルの指示に常に「はい」としか答えないダグラスが珍しく戸惑っている。
「どうしたの? まさか、か弱いご令嬢をここに置いていくつもり?」
「いえ」
「じゃあ、王子である私に令嬢を抱えて保健室まで運べと?」
「いえ、私が運びます」
ダグラスは何度がためらったあとに、硬い声で「失礼します」と言いながらロベリアを抱きかかえた。
(これは……お、お、お姫様だっこ!)
ダグラスの逞しい腕の中でロベリアが固まっていると、カマルが「あれ? 鍵が開いている。さっきは確かに閉まっていたのに」と不思議そうにしている。
「まぁいい。不審な点は多いが、ダグラスはとりあえず、ロベリアを保健室に連れて行ってくれ」
「はい」
「私は媚薬の件を先生に報告しておくよ」
「はい」
歩き出したダグラスの腕の中でロベリアは気を失いそうになっていた。
(何これ……こ、こんなことが起こって良いの? なんだか、頭がボーッとするし……はっ、これは夢なのね)
この世界がいくら乙女ゲームにそっくりだといっても、さすがにこれは都合が良すぎる。
(なんて素敵な夢なのかしら!)
ロベリアは、うっとりしながら、そっとダグラスの厚い胸板に頭を寄せた。そのとたんにダグラスが「ゴ、ガホッ!」とむせる。
(そっか、ダグラス様って女性が苦手だものね。フフ、リアルな夢。夢なんだし、抱きついちゃえ)
現実ではセクハラになってしまうが、夢ならやりたい放題だ。
ロベリアは、ダグラスの首に両手を回すとギュッと抱きついた。とたんに、ダグラスの足がふらつき、ロベリアの身体が傾く。
「きゃっ!」
ロベリアが小さく悲鳴を上げると、すぐに体勢を整えたダグラスの腕の中にロベリアは元通り綺麗に収まった。驚いたおかげで、ロベリアは頭がスッキリしたが、まだお姫様だっこされている。
「あれ……ダグラス様?」
「はい」
ロベリアがおそるおそる声をかけると、ダグラスの硬い声が返ってくる。長い前髪に隠れてダグラスの表情は読み取れない。
「え? ええ? これはいったい、どういうこと?」
ロベリアが動揺していると、ダグラスは冷静に現状を説明してくれた。
「ロベリア様は、多少媚薬を吸いこんでしまったため、その、記憶に混乱が生じたようです」
「あ……そ、ですか……」
夢だと思ってセクハラしてしまったが、どうやら全て現実だったようだ。
(セクハラは犯罪よ! ダグラス様に訴えられたらどうするの!?)
ロベリアが涙目になりながら「わ、私ったら、申し訳ありません」と謝罪すると、ダグラスは「お気になさらず」と紳士に許してくれた。