【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない

【コミカライズ記念連載】01 贅沢な悩み

※このお話は、本編が終わったあとのお話です。

***

 学園内にある食堂で侯爵令嬢ロベリアは、そっとため息をついた。

「人間って、欲深い生き物ね……」

 向かいの席に座っている妹リリーが、ナイフとフォークを持つ手を止めて、ロベリアになんとも言えないような視線を向ける。

「お姉さま……」
「リリー、私の悩みを聞いてくれる!?」

 リリーはサッと視線をそらした。

「嫌よ」
「どうして!?」

「だって、お姉さまの悩みって、いっつもあの護衛騎士のことだもの。今は私と一緒にいるんだから、私のことだけを考えてほしいのに……」

 プクッと頬をふくらませるリリーの可愛さは、相変わらず国宝級だ。

(ああ、私の妹が可愛すぎて、今日もつらいわ)

 うっとり見惚れていると、ロベリアは肩をツンツンとつつかれた。いつのまに現れたのか、幼馴染の公爵令息アランがニコニコしながら、ロベリアの肩をつついている。

「ロベリア、悩みなら僕が聞いてあげるよ」

 リリーからは「うげ」と貴族令嬢にあるまじき声が聞こえた。

 アランがロベリアの隣に座ろうとすると、リリーがあわてて席から立ち上がる。

 リリーは、アランを「あっちに行って!」と言いながら押しのけようとしているが、華奢なリリーがいくら押してもアランはビクともしない。

「アラン、勝手にお姉さまの横に座らないで! 今は私のお姉さまなんだから!」

「ランチは、もう終わりでしょう? ランチのときだけは、気を使って遠慮しているんだから、もうそろそろ僕も会話に混ぜてよ」

 リリーは「一生遠慮しときなさいよ! 私はアンタのこと、まだ許してないんだからね!?」と怒りで頬を赤くしている。

「お姉さまも、そうよね!?」
「……ああ、怒っているリリーも、なんて可愛いの」

 ロベリアは、うっとりしながらリリーを抱き寄せて、頭を優しくなでた。

「ああ、もうお姉さまったら! またぼんやりして! も、もう……」

 そうしているうちに、リリーの機嫌は直ったようだ。

 結局、リリーがロベリアの隣に座り、アランが向かいの席に座ることで落ち着いた。ロベリアの腕にしがみつきながら、リリーがアランを睨みつけているが、アランはまったく気にしていない。

「で、ロベリアの悩みってなんなの?」
「それがね……」

 いろいろあってロベリアは、カマル王子の護衛騎士であるダグラスと奇跡的に思いが通じて付き合えるようになった。

 そして、リリーのおかげで、リリーとカマルが婚約することを条件に、なんとダグラスと婚約することができた。

(幸せいっぱいの学園生活……と言いたいところだけど)

 真面目なダグラスには『私たちの婚姻が成立するまで、私は決して貴女に手を出しません!』と宣言されてしまっている。

 仕方がないので、ロベリアが勝手にダグラスに抱き着くことで、イチャイチャしたい欲求を解消していた。

「でもね……。人間って欲深い生き物なのよ……」

 アランが「え、何? ロベリアはダグラスと、婚前交渉がしたいって話?」と切り込んでくる。その言葉を聞いたリリーが「いやぁ!? 私のお姉さまが汚されるぅう!」と涙目になった。

「い、いえ、そういう話じゃないのよ。二人とも少し落ち着いて」

 他の生徒もいる真昼間の食堂で話す内容ではない。

 アランはテーブルに両肘をつきながら「じゃあ、どういう意味?」と首をかしげた。

「その、せっかく同じ学園にいるのだから、もっと学生らしいことを一緒にしてみたいなって」
「例えば?」

「それが良くわからなくて……」

 学生カップルらしいことがロベリアには、なんなのかがわからない。

 アランは「なるほどね!」と納得した。

「じゃあさ、ロベリア。ダグラスと一緒に食堂でランチをするのはどう? これは、学生のときにしかできない体験だよ」

 そのとたんにリリーが勢いよく立ち上がる。

「お姉さまとランチを食べるのは私よ! そうよね? お姉さま!」

 リリーの大きな瞳に、ウルウルと涙が溜まっていく。

「ええっと、そうよね。ランチはリリーと食べるわ」

 パァと表情を明るくしたリリーは、「じゃあ、あの護衛騎士とダンスレッスンをするのはどう? ダンスの練習って学生の間しかしないじゃない?」と提案してくれる。

 そのとたんに、今度はアランが勢いよく立ち上がった。

「えー! ロベリアのダンスレッスンの相手は、僕だよね? ね?」
「えっと……いつもありがとう、アラン」
「だよね?」

 アランは満足そうに微笑む。

 他に友達のいないロベリアにとって、リリーとアランは本当に大切で有難い存在だった。この二人がいてくれるおかげで、ロベリアは学園内でも楽しく過ごせている。

 だから、これ以上のことを望むのは、贅沢だとロベリアにもわかっていた。

(でも、ダグラス様は、今年で卒業してしまうから……)

 学生時代は一度きり。なんとか学生らしい思い出をダグラスと作れないかと、ロベリアは秘かにため息をついた。

***

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