【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない

【コミカライズ記念連載】06 次の目標!

 二人で意識的に『学生らしい思い出』を作ろうと決めて、毎日昼休みを一緒に過ごした結果。
 
「ロベリア」
「何? ダグラス」
 
 お互いに自然に名前を呼び合えるようになったし、それほど意識せずに手を繋げるようになれた。

 今は恋人らしく木陰のベンチで二人並んで座っている。
 
(す、すごいわ! 今の私達、恋人っぽい……こんな日が来るなんて……。でも、私、未だに心の中でのダグラス様呼びはやめられないのよね。なぜだか、ダグラス様は様付けで呼びたい私がいる……)

 ダグラスの「長期休暇のことだが」という言葉を聞いてロベリアは我に返った。

(そうだった! 今度の長期休暇はダグラス様の領地で過ごすんだったわ)
 
 長期休暇はもう目前だ。
 
 長期休暇に入れば、大半の生徒は学園から出て王都に構えているタウンハウスか、それぞれが治める領地へと帰っていく。
 
 いつものロベリアならリリーと過ごすが今回は違う。

(いよいよダグラス様の生まれ故郷に行くのね)

 そこではダグラス一家との顔合わせが待っている。

 ダグラスは「私の領地は王都から馬車で半日ほどかかるんだ」と教えてくれた。

「それほど遠くはないのね」と答えながらロベリアは『ダグラス様と半日も馬車内で一緒なんて嬉しいわ』と口元が緩んでしまう。

 そんなロベリアの気持ちを知らずダグラスは「私は馬で先に行くから、ロベリアは馬車でゆっくり来てほしい」と告げた。

「え?」
「何か問題が?」

 ダグラスにものすごく真面目な顔でそう聞かれたら、ロベリアは「いえ、何も」と答えるしかない。

(そうだった……すっかり忘れていたけど、ダグラス様にイチャイチャ甘々イベントを期待してはいけないんだったわ)

 ガッカリすると同時にそういう真面目なところも好きと思ってしまう。

(でも、私の気持ちを言うだけは言っておかないと)

 ダグラスのことだから、このままだと一生同じ馬車には乗らず現地集合をさせられてしまう可能性がある。

 ロベリアはダグラスのほうに向きなおると、ダグラスの手にそっと自分の手を重ねた。

「わかったわ。でも、いつかは一緒の馬車に乗ってお出かけしましょうね。私、ダグラスともっと一緒にいたいから……」

 言いながら恥ずかしくなってきたけど、それ以上にダグラスの顔が赤く染まっている。

「あっ、一緒に。そ、そういう選択肢もあったんだな」
(私にはその選択肢しかなかったんだけど……)

「その、先に行ってロベリアを迎える準備をしたかったんだ」

 そんなことを言われてしまうと、もう何も言えない。

「そういうことだったのね。じゃあ今回は別々で行きましょう。それにしても、緊張するわ……私、ちゃんとダグラス様のご家族にご挨拶ができるかしら?」

「その件については心配しなくていい。私には兄が二人いるが、領地には父と母しかいない。それに、私の家族は本当にロベリアが存在しているのか知りたいだけだから」
「そ、存在って……」

(そういえば、初めてダグラス様が私のことをご家族に報告したとき、『頭を打ったのか』とか『お前の妄想だ』とか言われたんだった。なんとなくだけど、ご両親はダグラス様が私に騙されているんじゃないかと心配しているような気もするわ……)

 ダグラスがロベリアと結婚すると、ディセントラ侯爵家に婿入りすることになる。
 それはダグラスからすれば、降って湧いたような逆玉(ぎゃくたま)の輿(こし)で、家を継げない貴族の三男には美味しすぎる話だった。

(何か裏があるのでは?と思われても仕方がないわね。それに、私、ゲームでは悪役令嬢の立ち位置だし、顔の作りがお父様に似てきついから、ご両親に誤解されないように気をつけないと)

 妹のリリーのように、この世のすべての人に愛されるほどの国宝級のかわいさならそんな心配しなくて良かったのに、と思わずため息をついてしまう。

 重ねていた手がギュッと握られた。ロベリアが顔を上げると、ダグラスがまっすぐこちらを見つめている。

「誰であろうとロベリアを傷つけさせはしない。必ず私が守ってみせる。たとえ相手が私の家族であってもだ。だから、安心して来てほしい」
「ダグラス……」

 温かい気持ちとともに、愛おしさがあふれて胸がしめつけられるように苦しい。

「ありがとう。じゃあ、ダグラスのことは私が守るね」

 とても良い提案だと思ったのに、ダグラスは首をふる。

「いや、それはいい。自分のことは自分で守れる」
「え?」
「ロベリアを危ない目に遭わせたくない」
「でもっ」
「絶対に危ないことはしないように」

 まるで小さな子どもに言い聞かせるように言われて、ロベリアは少しむくれた。

「ダグラスって、苦手なものや嫌いなものはないの?」
「苦手なもの……」

 少し考えたダグラスは「小さなものや、壊れやすそうなものは苦手だ」と教えてくれる。

「じゃあ、小さなものや壊れやすそうなものがあったら私が運ぶわ!」
「いや、それは使用人に任せるからロベリアがする必要はない」

 あっさり論破されてしまう。

「どうしたら、ダグラスのお役に立てるのかしら?」

 ロベリアがため息をつくと、ダグラスの口がポカンと開いた。

「ロベリアが、私の役に、立ちたい……?」

 まるで言葉を初めて聞いた人のような反応をされてしまう。

「そうよ、今はまだ婚約者だけど、結婚したら夫婦になるのだから、守ってもらうだけではダメでしょう? 夫婦ならお互いに支えあって守りあわないと」
「ロベリア……」

 愛おしそうに名前を呼ばれたかと思うと、大きな手がロベリアの頬に添えられた。ゆっくりとダグラスの顔が近づいてくる。

(あ、これってもしかして、キスされ――)

 ロベリアがそう思った瞬間に、ハッと我に返ったダグラスは、ロベリアから勢いよく顔を背けた。そのままの勢いで頭をベンチの背もたれに打ち付けてしまい、ガツッと痛そうな音がする。

「きゃあ!? 大丈夫?」

 顔を上げたダグラスの額には血がにじんでいた。

「ち、血が!」

 あわてるロベリアとは対照的に、あくまで冷静な声が返ってくる。

「大丈夫だ。少し頭を冷やしてくる」
「頭を冷やすより、おでこの治療を!」

 真面目な表情でコクリと頷いたダグラスは、ベンチから立ち上がると歩き去った。

 その後ろ姿を見送りながら、ロベリアは複雑な気持ちになる。

(そういえば、ダグラス様は、結婚するまで決して私に手を出さないと宣言していたんだったわ。でも婚約者だし、キスはしても良いと思うんだけど……)

 ロベリアは、少し考えた後に小さくうなずく。

(やっと恋人らしくなれたから、次の目標は長期休暇中にキスをすることね。もちろん、一番の目標はダグラス様のご両親にご挨拶をすることだけど!)

「よし、頑張るわよ!」
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