【コミカライズ連載中】年齢制限付き乙女ゲーの悪役令嬢ですが、堅物騎士様が優秀過ぎてRイベントが一切おきない
08 長い一日が終わりました
狂気が見え隠れするソルの微笑みが怖い。必死にこらえていたがもう我慢できない。ロベリアは恐怖で泣き出した。
「あらあら」
ソルに笑顔のまま、また手で口を押さえられたので、「うーうー」と言いながらロベリアは泣いた。
「ロベリアさん、そんなに可愛く泣かれると、先生の嗜虐心(しぎゃくしん)がくすぐられてしまいますよ」
美味しそうなものを目の前にしたように、舌なめずりしたソルを見て、ロベリアの心は完全に折れた。
(もう、やだぁ)
ソルの腕に手をかけると、離して欲しいと合図する。
「おや、先生に話す気になりましたか?」
何度も頷くと、ようやくソルは口を塞ぐのをやめてくれた。ロベリアは泣いてしゃくりあげながら、なんとかソルに説明する。
「わ、私、せ、先生が、元王様の護衛暗殺部隊の人だって知ってしまって……」
「うん、まぁそんなところだと思いましたよ。もちろん、誰にも言っていませんね?」
ロベリアが勢いよく頷くと、ソルは小さい子どもをあやすように、ロベリアの頭を撫でた。
「怖がらせてしまいすみません。でも、今ちょうど協力者が欲しかったので、私的には助かりました。どういう事情かは分かりませんが、私の正体を知っているのでしょう? でしたら、私の役目も知っていますね?」
「……役目って、この学園の警護のことですか?」
「そうです。どうして貴女が知っているのか拷問してでも問い詰めたいところですが、ここは穏便に協力といきましょう」
ソルが握手のように右手を差し出したので、ロベリアはこわごわとその手を握り返した。
「まぁ、この学園の特徴として、金持ちのバカが多く集まってくるんですよ。そこで、今、この学園でおかしな媚薬が高額で密かに取引されていまして……。こういうことは、今回が初めてはないのですが、その度に私の仕事が増えるんで困ったものです。バカが集まるとどうしても、こういうバカな問題が、ね……」
バカを連呼しながら遠い目をするソルは、どこか疲れているように見えた。
「そこで、犯人らしい生徒を炙り出そうと薬品置き場に罠を仕掛けたら、貴女がひっかかったというわけです」
「え? 私、犯人じゃありません!」
「もちろん、分かっていますよ。貴女みたいに外見が非常に整った女性は、媚薬なんて一生必要ないでしょうから」
ソルにさらりと真顔で褒められロベリアは驚いた。
「今お話した媚薬ですが、幻覚作用も伴っているので、早く取り締まらないとやっかいなのは分かりますね?」
「……はい」
ソルは急に笑顔になると、ポンッとロベリアの肩に手を乗せた。
「というわけで、ロベリアさんには犯人たちをおびき出す、囮になっていただきます」
ソルの目が少しも笑っていないことに気がついたロベリアは、半泣きになりながらも頷くことしかできなかった。
ソルは、ロベリアの肩に乗せていた手をおろすと、暗殺者から急に教師の顔に戻った。
「ロベリアさん、詳しい話はまた明日。時間も遅いので、今日は寮にお戻りなさい」
ソルの姿が見えなくなってから、ロベリアは大きなため息をついた。廊下の窓から外を見ると、日が落ちて辺りが暗くなっている。
(今、何時だろう。早く寮に戻らないと)
早歩きで廊下を歩いた。途中、中庭にある大時計で、今が午後8:00すぎだと分かった。もう食堂や購買が開いている時間を過ぎてしまっている。今日は夜ご飯を食べられそうにない。
(リリーにも悪いことをしたわ)
妹のリリーとは、いつも食堂が開く時間の午後6:00に食堂入り口で待ち合わせをして、一緒に夕食を取っていた。食堂は男女共有スペースのため、午後7:00くらいにもなるとたくさんの生徒で溢れかえる。その前に食事を終わらせてしまおうという考えからそう決めていた。
(こんなとき、連絡手段がないのは本当に不便ね。でも、今はとにかく部屋に戻らないと)
午後9:00以降、生徒が自室から出ることは、学園の規則で禁止されている。規則を破るとそれなりの罰を受けることになってしまう。
ロベリアは、女子寮の中に入ると、何だかホッとしている自分に気がついた。今日一日、いろんなことがありすぎて、身体が無意識に緊張していたようだ。
(早く帰って寝たい…)
そんなことを考えながら歩いていると、自分の部屋の前に何か置いてあることに気がついた。寮の部屋の中に置いてある勉強机用の椅子が、なぜがロベリアの部屋の扉の前に置かれている。
その椅子の上には、花柄の可愛らしいハンカチが広げて置かれていた。よく見ると、二つに折られた手紙が添えてある。ロベリアが手紙を開いて読んでみると、可愛らしい字が並んでいた。
--愛するお姉さまへ
--ご気分が悪いのですか? 今日は食堂にいらっしゃらなかったので、お姉さまの分のお夕食、置いておきますね。
--食堂の方にお願いして、食べやすいものを作っていただきました。
--どうかお身体お大事に。
--リリーより
驚いてハンカチを取ると、トレーの上にチキンスープとトーストが並んで置いてあった。手紙の下の方に、リリーの字で「私の椅子の上に食べ物を置いてごめんなさい。嫌だったら食べずに捨ててくださいね」と添えられている。
「……リリー」
リリーの優しさに胸が温かくなる。トレーを手に取り部屋に入ると、リリーの好意を有り難く口に運んだ。チキンスープは冷めていたけど、心がじんわりと温かくなる。そして、ふと気がついた。
リリーの手紙には『今日は食堂にいらっしゃらなかったので』と書かれていた。『食堂に来なかったのですか?』ではなく、ロベリアが今日、食堂に行けなかったことをリリーは知っていた。
「もしかして……私が来るのをずっと待っていてくれたの?」
食堂が開いてから閉まるまで、リリーは待っていてくれたのかもしれない。そういうことを平気でしてしまえるほど、彼女は優しいから。
一人で心配しながら姉が来るのを待っているリリーを想像すると、胸がしめつけられた。そして、姿を現さない姉のために、夕食を確保して、食べ物を床に置いてはいけないと思い、わざわざ自分の部屋からここまで椅子を運んで来てくれたのかと思うと涙が滲んだ。
(今日は色々と大変だったけど、大変な思いをしたのがリリーじゃなくて本当に良かった)
ロベリアは心の底からそう思った。
「あらあら」
ソルに笑顔のまま、また手で口を押さえられたので、「うーうー」と言いながらロベリアは泣いた。
「ロベリアさん、そんなに可愛く泣かれると、先生の嗜虐心(しぎゃくしん)がくすぐられてしまいますよ」
美味しそうなものを目の前にしたように、舌なめずりしたソルを見て、ロベリアの心は完全に折れた。
(もう、やだぁ)
ソルの腕に手をかけると、離して欲しいと合図する。
「おや、先生に話す気になりましたか?」
何度も頷くと、ようやくソルは口を塞ぐのをやめてくれた。ロベリアは泣いてしゃくりあげながら、なんとかソルに説明する。
「わ、私、せ、先生が、元王様の護衛暗殺部隊の人だって知ってしまって……」
「うん、まぁそんなところだと思いましたよ。もちろん、誰にも言っていませんね?」
ロベリアが勢いよく頷くと、ソルは小さい子どもをあやすように、ロベリアの頭を撫でた。
「怖がらせてしまいすみません。でも、今ちょうど協力者が欲しかったので、私的には助かりました。どういう事情かは分かりませんが、私の正体を知っているのでしょう? でしたら、私の役目も知っていますね?」
「……役目って、この学園の警護のことですか?」
「そうです。どうして貴女が知っているのか拷問してでも問い詰めたいところですが、ここは穏便に協力といきましょう」
ソルが握手のように右手を差し出したので、ロベリアはこわごわとその手を握り返した。
「まぁ、この学園の特徴として、金持ちのバカが多く集まってくるんですよ。そこで、今、この学園でおかしな媚薬が高額で密かに取引されていまして……。こういうことは、今回が初めてはないのですが、その度に私の仕事が増えるんで困ったものです。バカが集まるとどうしても、こういうバカな問題が、ね……」
バカを連呼しながら遠い目をするソルは、どこか疲れているように見えた。
「そこで、犯人らしい生徒を炙り出そうと薬品置き場に罠を仕掛けたら、貴女がひっかかったというわけです」
「え? 私、犯人じゃありません!」
「もちろん、分かっていますよ。貴女みたいに外見が非常に整った女性は、媚薬なんて一生必要ないでしょうから」
ソルにさらりと真顔で褒められロベリアは驚いた。
「今お話した媚薬ですが、幻覚作用も伴っているので、早く取り締まらないとやっかいなのは分かりますね?」
「……はい」
ソルは急に笑顔になると、ポンッとロベリアの肩に手を乗せた。
「というわけで、ロベリアさんには犯人たちをおびき出す、囮になっていただきます」
ソルの目が少しも笑っていないことに気がついたロベリアは、半泣きになりながらも頷くことしかできなかった。
ソルは、ロベリアの肩に乗せていた手をおろすと、暗殺者から急に教師の顔に戻った。
「ロベリアさん、詳しい話はまた明日。時間も遅いので、今日は寮にお戻りなさい」
ソルの姿が見えなくなってから、ロベリアは大きなため息をついた。廊下の窓から外を見ると、日が落ちて辺りが暗くなっている。
(今、何時だろう。早く寮に戻らないと)
早歩きで廊下を歩いた。途中、中庭にある大時計で、今が午後8:00すぎだと分かった。もう食堂や購買が開いている時間を過ぎてしまっている。今日は夜ご飯を食べられそうにない。
(リリーにも悪いことをしたわ)
妹のリリーとは、いつも食堂が開く時間の午後6:00に食堂入り口で待ち合わせをして、一緒に夕食を取っていた。食堂は男女共有スペースのため、午後7:00くらいにもなるとたくさんの生徒で溢れかえる。その前に食事を終わらせてしまおうという考えからそう決めていた。
(こんなとき、連絡手段がないのは本当に不便ね。でも、今はとにかく部屋に戻らないと)
午後9:00以降、生徒が自室から出ることは、学園の規則で禁止されている。規則を破るとそれなりの罰を受けることになってしまう。
ロベリアは、女子寮の中に入ると、何だかホッとしている自分に気がついた。今日一日、いろんなことがありすぎて、身体が無意識に緊張していたようだ。
(早く帰って寝たい…)
そんなことを考えながら歩いていると、自分の部屋の前に何か置いてあることに気がついた。寮の部屋の中に置いてある勉強机用の椅子が、なぜがロベリアの部屋の扉の前に置かれている。
その椅子の上には、花柄の可愛らしいハンカチが広げて置かれていた。よく見ると、二つに折られた手紙が添えてある。ロベリアが手紙を開いて読んでみると、可愛らしい字が並んでいた。
--愛するお姉さまへ
--ご気分が悪いのですか? 今日は食堂にいらっしゃらなかったので、お姉さまの分のお夕食、置いておきますね。
--食堂の方にお願いして、食べやすいものを作っていただきました。
--どうかお身体お大事に。
--リリーより
驚いてハンカチを取ると、トレーの上にチキンスープとトーストが並んで置いてあった。手紙の下の方に、リリーの字で「私の椅子の上に食べ物を置いてごめんなさい。嫌だったら食べずに捨ててくださいね」と添えられている。
「……リリー」
リリーの優しさに胸が温かくなる。トレーを手に取り部屋に入ると、リリーの好意を有り難く口に運んだ。チキンスープは冷めていたけど、心がじんわりと温かくなる。そして、ふと気がついた。
リリーの手紙には『今日は食堂にいらっしゃらなかったので』と書かれていた。『食堂に来なかったのですか?』ではなく、ロベリアが今日、食堂に行けなかったことをリリーは知っていた。
「もしかして……私が来るのをずっと待っていてくれたの?」
食堂が開いてから閉まるまで、リリーは待っていてくれたのかもしれない。そういうことを平気でしてしまえるほど、彼女は優しいから。
一人で心配しながら姉が来るのを待っているリリーを想像すると、胸がしめつけられた。そして、姿を現さない姉のために、夕食を確保して、食べ物を床に置いてはいけないと思い、わざわざ自分の部屋からここまで椅子を運んで来てくれたのかと思うと涙が滲んだ。
(今日は色々と大変だったけど、大変な思いをしたのがリリーじゃなくて本当に良かった)
ロベリアは心の底からそう思った。