【短編集】婚約破棄から幸せを掴むまで
「あの……確認ですが、殿下はわたくしとの婚約を解消するのですよね?この場で」

「えっ、あぁ……まぁ」

「ですから、すぐにサインを致しますので書類は何処ですか!?」

「なっ……はぁ?」


わたくしは、此方を見て驚き目を見開いているコーディ殿下の顔を見ながら首を傾げました。
自分から婚約の解消を申し込んでおいて、書類も用意していないのは、どういう考えなのか知りたいところです。

先程から「はぁ」だの「まぁ」だの曖昧な返事ばかりで嫌になります。

隣にはコーディ殿下と最近とても親しいと噂のアンバー嬢が、コーディ殿下の腕に身を寄せながら、可愛らしいお顔をそれはもう不細工に歪めながら此方を見ています。

まるで「どうしてそんな反応なの!?」と言いたげな顔です。

これは想像でしかありませんが、わたくしが拒否するか、もしくは泣きながら縋り付くとでも思ったのでしょうか。
それとも「婚約は破棄しない」「嫌だ」と抵抗するとでも?

そんな事はあり得ません。

だって、わたくしはこうなる事を予測して準備万端なのですから。

いつもの上目遣いはどこへやら……ですが、面白いからそのままにしておきましょう。
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