潮風、駆ける、サボタージュ
フェンスの高さは2mといったところだろうか。
由夏は運動神経が良く、幸い今は体操着でハーフパンツだ。
フェンスに手をかけたかと思うとあっという間にてっぺんまで登ってしまった。
由夏より一瞬早くてっぺんについた圭吾が、身体を外側に出して顔を上げた。
「あ、やべ。意外と早かったな。」
「え?」
由夏が圭吾の視線の方に目をやると、遠くでクラスメイトがこちらを見てざわついているようだった。
その様子に気づいた体育教諭もこちらを見た。そして、大きな声で何かを言ったようだった。由夏たちを制止する言葉だろうと想像がつく。
「急げ、藤澤!」
圭吾に急かされると急いでフェンスを乗り越えて、ぴょんと着地した。
授業中なのに一瞬でグラウンドの外に出てしまったことにどうも現実味を感じない。

「さて、もうバレたし、急ぐか。」
由夏はどこへ急ぐのかさっぱりわからなかったが、圭吾に乗ってみようと思った。
これから何が起こるのか、心臓がどきどきして内側から叩いてくるような感覚だった。
はじめは少し早足で歩くように由夏の一歩先を圭吾が歩いて、すぐに校門を抜けた。
「俺らはフェンス越えたけど、森先(もりせん)は教師だからそんなことするわけにいかねーし、その間に撒|《ま》けるとは思うけど…」
森先というのは、体育教諭・森本(もりもと)先生のあだ名だ。
「まく…」
言い慣れない言葉にもなんだかワクワクしてしまう。
「そんなに早く捕まりたくないし、やっぱスピード上げた方がいいな。」
と、呟いたかと思うと、圭吾は由夏をおいて走り出した。
「え、ちょっ…」
わけがわからず驚いた由夏も、圭吾の後に続いた。

由夏の靴が、久しぶりに地面を蹴った。
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