潮風、駆ける、サボタージュ
防砂林(ぼうさりん)松林(まつばやし)が見えて、足元が砂と石だけになった。
松が森のようにたくさん生えている薄暗い景色が視界の横を通り過ぎていく。
足元の砂が深くなって、走ろうとすると脚を取られて重く、もたつく。
圭吾は少しスピードを落とした。
「さすがにわかっただろ?どこに行くのか。」
「うん、結構前から気づいてた。」
由夏が息を切らしながら、それでも愉しそうな笑顔で言った。

「海」

松林の最後にびゅうっと強い風が通り過ぎると、視界の先が開けてぱっ明るくなった。
砂浜と深いブルーグリーンの水平線が目の前に広がった。


しばらくの間、二人は何故だか呆然と海を見つめていた。
「海だ…」
由夏が言った。
「海だな。」
圭吾が言った。
二人は顔を見合わせると、フッと吹き出すように笑った。
「当たり前だろ。」
「当たり前でしょ。」
声が揃った。

教室の窓から眺めるだけだったキラキラした世界が目の前に広がっている。
「…信じらんない、授業抜け出して海にいるなんて。」
由夏が感慨深げに呟いた。
「うちの学校の生徒なら…なんなら先生たちも、絶対一回は考えてるよな、授業サボって海に行きたいって。」
圭吾の言葉に由夏はうんうんと深くうなずいた。
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