潮風、駆ける、サボタージュ
誰もが憧れのように想像するが、実際に授業を抜け出して海に来る生徒はいないに等しい。
学校から海までは直線距離で200mほどだが、入り組んだ街並みを抜けるには1km以上の距離があり、辿り着くには時間がかかる。
海に着いたら着いたで、靴や服の隙間に砂が入って不快だし、汐風で髪がベタつきキシキシとした触感になってしまうのを女子はとくに嫌う。
そもそもこの街に住む人間には海が身近すぎるのかもしれない。

それでもこうして海に来ることを実行してしまえば、例えようもないくらいの爽快感で満たされた。
グラウンドではときどきキツく感じる潮の匂いも、不思議と浜辺では全く気にならない。

「水、気持ちいいんだろうなぁ。」
由夏が言った。
「足だけ入れば?」
「でもタオルとか持ってないし。」
残念そうな表情(かお)をした。
「高橋は入れば?」
「タオル持ってないのに入るヤツいねえだろ。」
「え、なにそれ!今私に入らせようとしたよね!?」
圭吾がニッと笑った。
もう!と由夏はムッとした。この数十分で、今まで過ごした長い時間以上に圭吾という人間がわかってきたような気がする。

二人はなんだか満足して、砂浜に座り込んだ。かと思ったら、圭吾は仰向けで寝そべってしまった。
「えー!砂だらけになるよ…。」
「今日はいい。」
「きょうはいい…」
由夏は圭吾の言葉を飲み込むように繰り返した。
「そっか。」
と納得したように言って、由夏も空を仰いで寝そべった。

空には太陽が輝いていた。
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