潮風、駆ける、サボタージュ
フェンスの向こうから由夏に声をかけたのは、同じクラスの高橋(たかはし) 圭吾(けいご)だった。走る由夏の視界に入り込んだのは圭吾の金色の髪だった。蜂蜜のような透明感のある金色で、影になるところはキャラメルのような色をしている。地毛ではなく、明らかに染めている髪色だった。

(高橋がなんでまだ学校にいて、ここにいて、私に話しかけるんだろう。)

全力疾走直後のぼんやりとした頭で考えていた。

(ああ、教室で騒いでた帰りか。)

由夏はこの金髪のクラスメイトが苦手だった。日頃 必要以上のやり取りがあるわけでもないが、圭吾と圭吾の友人のグループは由夏からすれば騒がしく、中でも圭吾は受験生にも関わらず校則違反の金髪にしているのでさすがに印象が悪い。
しかし、由夏が圭吾に苦手意識を持つ一番の理由は、金髪なことでもなく、騒がしいグループだからでもなく、彼が学年どころか全国模試でも上位になるような頭をしていることだった。

(遊んでたって学年1位になれちゃう高橋。
たった100mで(もが)いてる私。)

そんなことを考えて、少し虚しくなった。

「お つかれ…」
由夏もぽそりと言った。

圭吾は一瞬 じっと由夏を見ると、向きを変えて校門の方へ歩いて行った。

(なんか言いたげだったな。
「部活なんか真面目にやってバカみたい」とかかな。
高橋から見たらそうだろうけど。…腹たつ。)

もう午後6時を回っていたが、まだ空はそれほど暗くなく、潮風の匂いがいつもより濃い気がした。
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