潮風、駆ける、サボタージュ

第2話 キラキラ

由夏たちの教室は校舎の4階で、窓からは遠くに海が見える。住宅街の向こうに防砂林の松林があって、その奥には砂浜と波でキラキラと光る海。夏が近づいてきたこの季節は窓からの景色と風が一番心をざわつかせる。
教室を飛び出して砂浜に行って、走ったり叫んでみたり、海に足をつけてみたい。
今この教室にいる生徒の誰しもが一度は想像したはずだ。
もちろん受験生の由夏たちがそんなことを想像したところで、大半の生徒には夢でしかない。

夏が近づくことを知らせるこの景色が、ここのところ由夏にとっては焦りのタネでしかなくなっていた。
夏に大会がある。そこでの成績が、由夏が希望する大学への推薦入学の最終的な判断材料になる。
それなのにタイムは下げ止まったまま。
上がることも、自己ベストになることも無いが、一定のところから下がるわけでもない。

(いっそもっと下がってくれたら投げ出してしまえるのに。)

海を見ながら由夏は考えていた。
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