落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
 ふたりを交互に睨みつけ、私は言い放つ。ホミが涙目になり、リンレンは愕然とする。ああ、胸が……千切れるように痛む。そうよ、嘘なの、そんなこと思っていないよ? ホミもリンレンも、トネリもマゴットも……そしてヴィーも、みんなみんな本当は大好きだよ! と心の中で何度も繰り返していると、前方から突然黒煙が上がった。黒煙は辺りを包み込むと、一瞬で晴れた。そこにいたのは巨大な黒竜。幻獣の国ドーランの王、黒竜ヴィーだ。
 初めて全貌を現した竜は、想像していたよりも恐ろしく感じた。でも、それは今彼が憤慨しているからであって、そうじゃなかったらもっと違う印象だったはず。ヴィーから滲み出る怒りは、周囲の空気をヒリつかせていた。
「人間……人間だったとは、な。俺もすっかり騙されたぞ」
「ヴィー……」
「人間がその名を呼ぶな、汚らわしい! 許さぬ。人間は……悪である」
 黒竜の咆哮が大気を震わせた直後、ヴィーは恐ろしさで震える私の体を鷲掴みにし、一気に空に飛び立った。
「王! ちょっと待ってくだ……」
 眼下でティアリエスの叫びが聞こえた。あっという間に遠ざかる地上で、ホミやリンレンはもう豆粒のよう。なにかを叫んでいる姿が見えたけれど、耳に届くのは風を切る轟音だけ。黒竜の飛翔スピードはあまりにも早く、あっという間に雲の上にいた。
 これから、どうなるのだろう。
 なんて考えても無駄ね。行き着く先の見当は付いている。だって私の視線の先に、火を噴く業火の山が見えてきたのだから。
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