落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
 ホミを抱き、私は大きなヴィーの背を掴む。鋼のようにしなやかな翼を羽ばたかせ、漆黒の竜は大空へと飛び立った。空は紫と橙の中間色で、今まさに業火の山の向こうから、朝日が顔を覗かせようとしている。ふと眼下を見ると、あんなにいた暴徒がひとりもいなくなっていた。みんな、眠たくなってしまったのかな? いや、そんなバカな……。
「邪悪な心を消す、という魔術の効果は、グラウニクと国王だけにとどまらなかったようだ。さすがは賢者パトリシア」
「ヴィー? あ……それってまさか……」
 王宮の謁見室だけでなく、バーディア全土にも魔術が広がったの? だから、みんな怒りを忘れて家に帰ってしまったのかしら?
 とにもかくにも、暴動が治まってよかった。あのままだと誰かが怪我をしていたかもしれないものね。
「いい朝だ。清々しいな」
 空を舞うヴィーは、背伸びをするように大きく翼を広げた。
 その姿を真似するように、私とホミも天に向かって伸びをした。
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