落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
 力任せに叩くので、何度も体が前のめりになる。けれど、そんなことより彼女が……いやトネリ夫妻がリンレンとホミのことを大切に思っていてくれていたことに感動していた。「ドーランの民はみんな仲間」という食事時のトネリの言葉が頭を過る。優しさが溢れる幻獣の国。
 その温かな想いに頬を緩ませながら、私はマゴットとみんなのいる農場のほうに移動した。
 
 家に帰ってきた私たちは、トネリ夫妻の農場で手に入れた七色の糸をテーブルの上に並べた。自然の植物で着色された糸は、発色も素晴らしく仄かにいい香りもする。今からこれでアミュレットを作るのだと思うと心が躍った。
「パトリシアお姉ちゃん、隣で見ていていい?」
「僕も見学します!」
 興味津々で身を乗り出すふたりに、笑顔で頷き返すと、少し緊張しながらかぎ針を持つ。愛用のかぎ針とは違う感触に最初は戸惑ったけれど、練習でひと編みふた編みしてみると、すぐに馴染んできた。
「さて、まずは……」
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