落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
第一章 落ちこぼれ白魔術師と幻獣の国
 山を越えて谷を下り、五日を費やしてバーディアに着くと、ものものしい様子が目に飛び込んできた。 
 商店が並ぶ往来を兵士たちが闊歩し、一般の民は怯えたような表情でそれを眺めている。いち早く王宮に向かいたかったけれど、ひとまず腹ごしらえをしようと最寄りの食堂に寄った。
「いらっしゃいませ! おひとりかしら?」
 入ると、店の主らしき女性が大声で話しかけてきた。
「ええ。食事、いいですか?」
「もちろんよ。ああ、そこのカウンターでいい? テーブルは満席なのよ」
「はい」
 女性は私をカウンターに案内すると、果実水とパン、鳥料理と瑞々しい果物を大皿に乗せてやって来た。
「はい。どうぞ! 騒がしいけどゆっくりしていって」
「ありがとうございます。あの……いつもこんなに兵士の方ばかりなのですか?」
 辺りを見回すと、食堂の中は兵士でいっぱいだ。三年前はこうじゃなかった。私が昔、兄と両親とでこの食堂に来た時は、もっと町の人でいっぱいだったはず。
「そうなのよ。戦争が始まってから、ずっとこんな調子で、町のみんなは怖がって近寄らないわ。困るわよねえ」
 女主人は声を潜めて言った。
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