落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
 早い、早すぎる。制作依頼が来ればいいなあ、とは思ったけれど、朝一で頼まれるなんて考えてもみなかった。
 驚く私の横で、リンレンがマインに椅子を勧める。すると、彼女はゆったりと腰掛け、こちらに向き直った。
「そうなの、パトリシアさん。昨日警備隊の人からアミュレットの話を聞いて、是非ひとつ頼もうと思って。朝早くから迷惑かもと考えたのだけど、出遅れたら困るでしょう?」
「はあ……アミュレットの注文はもちろん受け付けますけど、出遅れる、とは?」
「あら。あなたまだ知らなかったの? 警備隊長のファルが、昨日町の酒場で宣伝していたのよ。このアミュレットは素晴らしい! パトリシアさんは優れた魔術師だ!って、ね」
「あ、なるほど。ファルさんが……」
 昨日の興奮した様子を見れば、酒場で言い広めるのは理解出来る。
 ただ、私は優れた魔術師ではない。アミュレット作りが得意なだけの、落ちこぼれである。でも、そんな細かいことより、ある言葉が気になっていた。
 マインの言う「出遅れる」という言葉である。
 まだしっくり来ていない様子の私を見て、マインは言葉を付け足した。
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