信じていた···疑う事も··なかった
動き出す⑥

「 時任 」と、言う弁護士さんから
自宅に連絡が来た。

弁護士? なぜ?
と、不思議に思いながら電話に出る。

その内容に驚きと落胆が。

まだ、一人にさせるのは
無理ではないかと
思っていた。

絵美は、大学を卒業して
幼稚園に務めたが
クレームばかりな保護者
サービス残業は当たり前
改善を提案しても
みんなそうだからで終る
上司と園長

子供が好きで
子供達の笑顔の為だけに
ついた仕事なのに
絵美は、ボロボロになって
帰ってきた。

人の娘を壊しても
なんとも思っていない
園の人間に怒り心頭で
労基にも話し
弁護士にもお願いした。

騒ぎが大きくなると
和解を提示してきた園のやり方や
食べれない、眠れない絵美を
見ると許せなくて
和解に応じなかった。

ただ、元の娘に戻して欲しい。
それだけ。

務める人間に対して責任を
持つのが経営者
そこを司る人ではないのか?
その上、何もしない、できない
上司なら必要ないのでは?

こんな騒ぎになってから
謝罪されても·····と
悔しく思うばかり
タイムカードもなく
サービス残業の認定は難しいと
言われたが、絵美がつける毎日の
日記で証明された。
これで、労基が動くだろう
保育士として働く全ての人達が
絵美の用にならないように
してほしい。
ただ、それだけだ。


声に元気がない絵美を心配して
絵美の元に行く·····と
覇気の無い顔
だが、心配かけたくないのか
大丈夫だと繰り返す絵美。

帰宅する日には、
妻にすがって泣く絵美を
妻は、置いて行けなくて
妻だけ残ることも。

そんな絵美を説得して説得して
園を辞めさせて連れて帰った。

あれから二年が過ぎた。

絵美は、心療内科に入院して
やっと体重も元に戻り始め
笑顔も少しずつ見られる様になり
先生と相談しながら
少しずつ社会復帰を進めていた。

税務署のパート求人から
合格できたら始めようと。

私も妻も、まだゆっくりするように
話したが、
「逃げてばかりでは
自分は一生、お父さんやお母さんから
守られないと生きて行けなくなる
そんな事したくない。」
と、言う絵美
「無理はしない。」
と、約束して応募した。

合格してからは、毎日緊張した顔を
していたが楽しそうに
やっていることを
妻と喜んでいた。

土日も少しずつ出掛けるようにも
なって行った。

当時の自分と重なるものが
その係長にあったのではないかと。

私も妻も奥様に
申し訳無い気持ちでいっぱいだった。
奥様の会社に乗り込む······なんて。

時任先生から連絡もらってから
絵美のアパートまで妻と迎えに行った。

絵美は、暗い部屋の隅に
体躯座りで座っていた。
妻は、絵美を優しく抱きしめてから
「帰ろう。」
と、囁くと
絵美は、何度か頷いた。

片付けは、後日にして
私達は三人で自宅へ帰った。
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