信じていた···疑う事も··なかった
ある日①
ある日
一軒の建設会社に
男性が訊ねてきた。
そこは飛鳥建設株式会社
デザイン室にいた
染谷の会社だった。
実は、染谷の妻である
美佳 ( みか ) の
父親が建設会社をやっていて
父親の体調不良と共に
飛鳥建設を辞めて
父親の会社を引き継いだのだ。
美佳も美佳の父親も
染谷が飛鳥建設株式会社を
どれだけ大事にしていたか
知っていたから
辞める事には反対をした。
何度も、何度も話し合いをした。
結城課長や沙良とも
話し合ってきた。
それでも染谷の意志は固く
何かあったら
直ぐ相談、報告、連絡をすると
言う硬い約束を交わして
退職が受理された。
あり得ない話だが·····
だが、染谷の人柄や考えに
顧客も増えて行き
沙良も手伝う事もあった。
その男性は、
沢山の建設会社を調べて
染谷のホームページに
魅入られたらしい。
「この家を建てて
貰えませんか?」
と、言って男性が見せた
デザイン帳は、
かなり古く、ボロボロだったが
開いて見る事ができた。
手垢と汚れ?涙だろうか?
でも、デザイン画は
綺麗だった。
ん?どこかで見た?
そのデザイン画を見つめていると
「古くて無理ですか?」
と、小さな声で不安そうに
話す男性に。
「いいえ。大丈夫ですよ。
ですが、かなり古い作りですが
このままで宜しいのですか?」
と、訊ねると
彼は、「はい。」
と、答えた。
詳しい話をするのに
椅子に座って貰い
建築場所、費用の説明を行い
仮の書類を記載してもらう。
その間に美佳がコーヒーを
だして少し談笑する。
名前を見て驚いた。
美佳を見ると美佳も
びっくりしていた。
高木 早都
( たかぎ はやと )
沙良が離婚した男性だ。
この人も結婚するんだと思い、
訝りもあり
断ろうかと思ったが
妻の欄は、空白で
いまからなのか?と思っていると
「私は、結婚をしていません。
妻もいません。
そんな男が家を持つのは、
おかしいことかもしれません。
ですが、染谷さんの会社の
ホームページを見ていたら
染谷さんに一度だけ
頼んで見ようと
だめでしたら、一生建てない
と、思ってきました。」
と、言われて
男性の顔を見ると
真剣に言われてる事が
伝わった。
それから契約に入り
デザインの細かい打ち合わせを
重ねる話をした。
男性は、
「鎌倉に建てたい。」
と、言った。
もちろん問題はない。
すぐに色々な事が
動き始めた。