君にたくさんのありがとうを



溢れ出していた涙を袖で拭って、「はい」と返事をする。


私の返事を聞いてから、ガラリと扉が開いた。



「……陽子ちゃん」


「こんにちは、桜庭さん」



顔を出したのは、陽子ちゃんだった。


でも、いつも一緒にいるはずの鎌田くんたちがいない。



「あ、圭佑たち?それなら今日は来ないよ。私だけ」



私の聞きたいことが伝わったのか、そう言われた。



「そうなんだ……」



陽子ちゃんとは何を話したらいいのかわからない。


無言でいると、陽子ちゃんは神代くんの様子を見てから、ベッドからは少し離れたソファーに腰をかけた。



「颯馬の様子は?」


「ずっと眠ったまま」


「そう」



陽子ちゃんもずっと神代くんのことを気にしている。


神代くんと仲良いグループの中でも一番気にしていると思う。



「私さ」



沈黙の時間を破ったのは、陽子ちゃんだった。



「うん」



なんだか怖くて、陽子ちゃんの方は向けなかった。


その代わりに、眠ったままの神代くんに目を向ける。





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