君にたくさんのありがとうを



「し、おり……」



詩織だ。


詩織は生きている。


それだけでホッとする。


自分なんてどうだっていい。


詩織が。


詩織さえ生きててくれれば。



「おい、まだ意識はあるぞ!」


「救急車はまだか!」



遠くでそんな声が聞こえる。


他の人なんてどうでもいい。


詩織の声を聞かせて。



「ごめっ、ごめんなさいっ、神代くんっ」



微かにそんな声がする。



「謝らないで……詩織は、大丈夫?」



大丈夫。


まだ自分の口は動く。


霞んだ世界の中に、うっすらと詩織の影が見えた。


よかった。


予知夢の通りにならずに済んだ。


未来を変えることができた。





< 136 / 205 >

この作品をシェア

pagetop