君にたくさんのありがとうを



気がつくと、真っ暗な世界に俺はいた。



「ここは、どこだ……?」



俺の声は響かずに暗闇へと消える。


それがなんとも気味が悪かった。


俺は……


そうだ。


詩織を守った代わりにトラックに跳ねられたんだっけ。


それで、それから……俺はどうなったんだろう。


俺は死んでしまったのだろうか。


それならこんな真っ暗な世界にいるのも納得がいく。


これが死後の世界ってやつなんだろうか。


でも三途の川は見えない。



死んだ時はそこを渡ると聞くけれど……



俺は生きているのだろうか。


死んでいるのかも生きているのかもわからない。



「詩織に会いたい」



俺の最後の記憶の中では、詩織は元気そうだった。


恐怖に怯えた表情が目に浮かぶ。


俺を見てそんな顔をしていた。


今すぐに抱きしめてやりたい。


頭を撫でてやりたい。


詩織に会いたい。



「うっ……」



それと同時に眩しい光が俺に向かって差し込んだ。





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