君にたくさんのありがとうを



詩織だ。


俺の会いたかった詩織がそこにいる。



「詩織!俺だよ、俺!わかるか?」



必死に詩織の名前を呼ぶ。


それなのにその声は詩織に届かない。



「くそっ、なんでだよっ!!」



確かに近くに詩織がいるのに。


なんで俺の声が聞こえねぇんだよ……



「そろそろ私は帰らなくちゃいけないから、颯馬のことお願いしてもいいかしら?」


「はい、わかりました」



しばらくして、俺の母親は病室を出て行った。


この世界に俺と詩織のふたりきりになる。


詩織は俺のすぐ隣に腰をかけた。


そして俺の名前を呼ぶ。



「神代くん……ごめんね」



詩織はひたすら俺に頭を下げて謝っていた。



「なんで謝るんだよ!俺は当然のことをしただけで、詩織は何も悪くない。なっ!だから……!」



必死にそう呼びかけるのに、やっぱり俺の声は届かなくて、詩織はただただ俺に謝り続ける。


やめてくれ。


本当に詩織のせいじゃないんだから。






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