君にたくさんのありがとうを
無視をするわけにもいかず、声の主を確認しようと顔を上げると、そこには神代くんがいた。
「……どうしたの?」
こんな私に声をかけてくるなんて珍しい。
いや、今日はずっと目で追われてたっけ。
私に声をかけるタイミングを見計らっていたのだろうか。
息の上がっている神代くんは、走ってここまで追っかけてきたことがわかる。
そんな急いで何の用だろう。
「ちょっと話したいことがあって」
「……あまり、時間ないんだけど……」
用事なんて本当は何も無い。
ただ早く解放されたかったから。
そして、誰かに見られるより前にここから立ち去りたかったから。
「え、じゃあ帰り道に話そう!カバンとってくるからちょっとだけ待ってて」
「えっ、ちょ……」
神代くんは、私が返事をする前に、回れ右をして教室へと戻って行ってしまった。
待っててって……
あまり一緒に居たくないからそう言ったのに。
どうしよう。