君にたくさんのありがとうを
本当は早く帰りたくて仕方なかった。
あんな言葉なんて無視して帰ってしまいたかった。
それなのに私は、生徒玄関の壁に寄りかかって待っている。
無視してしまうのも怖かった。
……なんか、前にも同じようなことをした気がする。
学ばないなぁ、私。
でも、今の私には無くなるものは何も無い。
友達も何もかも全部捨ててしまったから。
数分待ってみたけれど、なかなか神代くんは戻って来なかった。
「……バカバカしい」
きっとまたからかわれただけなんだ。
あの時みたいに。
待っている私がバカみたい。
いつの間にか生徒玄関は帰ろうとする生徒で溢れかえっていた。
この人混みに紛れて帰ってしまおう。
壁から体を引き剥がし、学校を出た。
「……ばさん、桜庭さん!」
生徒玄関を出たところで、また私の名前を呼ばれた。
「ごめん、遅くなった」
そこにはまた肩を上下させて息を切らした神代くんの姿があった。