君にたくさんのありがとうを
生徒玄関で靴を履き替えながら考える。
行かないと決めていた誘いに迷いが出てきていた。
絶対に良いことはないから行かない方がいいと思う。
けれど、行かない方が面倒くさいことになるのではないか。
友達である英里ちゃんのこともあるし、キッパリと断って、私とは関わらないでほしいと伝えるべきかもしれない。
それが、私の大きな間違いだった。
帰ろうとしていた足を止めて、約束の裏庭へと向かう。
するとそこには、すでに一条くんが待っていた。
「桜庭さん、来てくれてありがとう」
いつものニコニコとした私の苦手なスマイル。
さっさと用事を済ませて、早く帰りたい。
「こんなところに呼び出してどうしたの?」
我ながら思うけれど、可愛げがない。
そんなところがモテない理由だと思う。
裏庭にある大きな木の下で2人きり……だと思っていたのは違った。
廊下の窓にへばりついて、聞き耳を立てている人影が見えた。
一条くんとつるんでいるグループの人たちだ。
やっぱり何かのゲームなのかもしれない。
そうじゃないと関わりのない一条くんが私のことを呼び出すわけがない。