君にたくさんのありがとうを



今日は勉強するために早く来た人が多いらしい。


登校するには早い時間なのに、いつもよりも生徒玄関は人で賑わっていた。



「おう、颯馬!」


「おはよ、圭佑」



ちょうどそこで神代くんと仲良しの鎌田くんと鉢合わせた。



「桜庭さんもおはよう」



神代くんの後ろから顔をひょこっと出して挨拶された。



「お、おはよう」



まさか私にも挨拶されるなんて思わなくて、おどおどしまって申し訳ない。



「んじゃ、また後でねー」



神代くんは私に気を使ったのか、私と別れて鎌田くんと教室へと歩いていった。


1人になって、急に寂しさに襲われた。


最近の中で神代くんの存在はとても大きい。


それはずっと感じていた。


傍に来るたびに、隣を歩くたびに、名前を呼ばれるたびにドキドキしてしまう私の心臓。


このドキドキはなんだろう。


誰かにこのドキドキの正体を聞いてみたかった。


それを聞いてくれる人は、私にはいない。


去年の私だったら、英里ちゃんや未奈ちゃんに聞いていたのかもしれないけれど、今はそれもできない。


どこかでその気持ちに気づき始めていた私もいたけれど、必死に気づかないように押し殺していた。




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