君にたくさんのありがとうを
「傘持ってるしさ」
そう私の前で傘を揺らして見せる。
確かに朝もそう言っていたけれど。
でも1本しかないって……
「ほら、行こ」
「え、ちょっ……」
腕を引かれて立ち上がる。
「颯馬、気をつけて帰れよー」
「おう」
教室を出る前に、鎌田くんから声をかけられる。
鎌田くんに、私の手を握っているのと反対の手を上に上げて答えていた。
「桜庭さんもね」
「……う、うん」
私にも声をかけられると思っておらず、拍子抜けした声を出してしまった。
ちゃんと答えたいのに、神代くんの足は止まらず、鎌田くんたちの目の前を素通りして教室を出てしまった。
雨のせいで教室に残っている人はたくさんいる。
ただでさえ私を連れている神代くんが注目の的なのに、こんな雨の中帰ろうとしている私たちは余計に視線を浴びていた。