君にたくさんのありがとうを
雨が降る中、黒い傘がひとつ。
その下を歩く人がふたり。
歩く度に肩がポンっと当たる。
その度に胸がドキドキする。
それがむず痒くてちょっとだけ左にずれた。
「そんなに離れたら濡れちゃうよ」
そう言って背中に腕を回して、体を引き寄せられた。
せっかく離れたのに……
抱き寄せたその手はなかなか離してくれなくて、触れているところがじんわり熱くなる。
これ以上ドキドキさせないで欲しい。
何かに気がついてしまいそうになるから。
「神代くんだって肩が……!」
ふと隣を見て気づく。
私の方に傘を傾けてくれているせいで、神代くんの右肩が濡れてしまっていた。
「いいんだよ、これくらい。それよりも詩織が濡れて風邪ひかないか心配」
またドキッとすることをさらりと言ってしまう神代くん。
心臓がいくつあっても足りない。