君にたくさんのありがとうを



桜庭さんは、生徒玄関の壁に寄りかかって待っていた。


しかし、その体を引き剥がして帰ろうとしてしまっていた。


早く引き止めないと。



「……桜庭さん!ごめん、遅くなった」



教室からここまで全速力で走ってきたからか、息が上がっている。



「圭佑が離してくれなくて」



申し訳ないと謝った。


桜庭さんは居心地が悪いのか、俺の少し前を歩いていた。


その後ろを俺が着いていく。


いつあの話を打ち明けようか。


すぐに話すのはあまり良くないかもしれない。



「桜庭さんって電車通学?」


「……そうだけど」


「そっか、なら良かった」



そう思って、何気ない話からすることにした。


桜庭さんは、素っ気ないながらも首を振ったりして俺の質問に答えてくれた。



「でさ……桜庭さんに話っていうのが」



そう話を切り出すことができたのは駅に着いてから。



「……うん」



俺が真剣な顔をしたからか、桜庭さんも緊張しているようだった。




< 81 / 205 >

この作品をシェア

pagetop