君にたくさんのありがとうを
「何なに?どうかした?」
俺は何も知らないフリをして近づいた。
「……どうして」
桜庭さんは俺が来たことに驚いていた。
それよりも驚いていたのは、クラスメイトの方だった。
「か、神代くん!?」
「神代くんには関係なくて!」
俺が来てから、妙にあせり出してアタフタする女子。
夢になんて見なくても、俺のことが気になっていることはバレバレだ。
でも平気で人を傷つけるような奴は好きになれない。
「あ、言うの忘れてた」
それなら、教室中に言いふらしてやればいい。
未だに放心状態の桜庭さんの肩を抱き寄せる。
「俺ら、付き合ってるから。文句ある?」
俺のその一言で、クラス中が静まり返った。
「な、詩織」
この時、初めて桜庭さんの名前を呼んだ。
緊張した。
桜庭さんはどう思っただろうか。
もういっその事、詩織って呼んでもいいんじゃないか。
「え、マジで言ってんの?」
誰よりも先に、驚きの声を出したのは岡田だった。
「そうだよ。だから、いじめとかくだらないことはやめろよな」
「颯馬がそんな陰キャと」
岡田も話せば楽しいけれど、人を下に見る癖がある。
そこは直した方がいいと思うところだ。
「詩織、行こ」
「……ちょ、待って」
これ以上ここにとどまっても仕方がない。
詩織の手を引いて、教室から逃げ出した。