君にたくさんのありがとうを
「待って、神代くんっ!……神代くんってば!」
生徒玄関に来て、やっと詩織が口を開いた。
ずっと放心状態だったらしい。
「……なんであんなことっ!」
詩織ってこんな声も出せるのかと驚くくらい大きな声だった。
「あのままだったらまた変な噂で責められるところだった」
「別によかったのに」
さっきは少し目に光が戻ったと思ったのに、その光はすぐに消える。
詩織は何を抱えているのだろう。
きっと何か、大きなもの。
中学生の頃の俺と重なるからこそ放っておけない。
「俺が許せなかっただけ。俺がああやって言わなかったらもっと酷くなってたんだから」
そうは言っても、詩織は納得がいっていないようだった。
「夢で見たんだよ、詩織が虐められてる様子」
「……信じられない」
「まぁ、そうだろうな。全部俺がやりたくてやってるだけだし、気にしなくていいよ」
そう。
全部俺が勝手にしたくてやっているだけ。
詩織は気にしなくてもいい。