君にたくさんのありがとうを



「そうかな?俺は楽しいけど」


「……っ」



自分の気持ちを素直に伝えただけなのに、詩織は言葉を詰まらせていた。


そんなおかしなことを言ってしまっただろうか?


いや、そんなことは無いはず。



「詩織?どうかした?」


「ううん、なんでもない」



心配になって聞いてみたけれど、すぐにいつもの詩織に戻っていた。



「帰り傘貸してあげるから、困ったら言って」


「2本持ってるの?」


「いや、1本だけだけど」



そう言うと詩織はよくわからないと言った顔をしていた。


俺はそれを口実にしてただ詩織と一緒にいたいだけだった。


そうこうしているうちに学校に着き、生徒玄関で圭佑に遭遇した。



「おう、颯馬!」


「おはよ、圭佑」



圭佑も今日がテストの日だからか、いつもより早めの登校だった。



「桜庭さんもおはよう」


「お、おはよう」



詩織はまだ圭佑と話すのは慣れていないらしい。


ちょっとおどおどしてしまう姿も愛おしい。


守ってあげたくなる。


圭佑がいるからか、なんだか落ち着かない様子の詩織。


それがちょっと可哀想に思った。



「んじゃ、また後でねー」



そう言って俺は圭佑と一緒に教室に行くことにして別れた。




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