君にたくさんのありがとうを
「ほら、言っただろ?」
圭佑たちと別れてから、詩織の元へと向かって声をかけた。
「本当だね」
そう呟いて、詩織は窓の外を眺めていた。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ」
「え?」
この雨の中、本当に帰るのかと言いたげな顔をしている。
そんな表情でさえも可愛いと思ってしまう俺がいた。
「傘持ってるしさ」
カバンの中から取り出して見せる。
小学生の頃から使っている物持ちのいい傘だ。
「ほら、行こ」
「え、ちょっ……」
なかなか立ち上がらない詩織を見兼ねて、腕を引いて立ち上がらせる。
「颯馬、気をつけて帰れよー」
「おう」
教室を出る前に、圭佑から声をかけられた。
そんな圭佑に手を上に上げて答えて、教室を出た。
生徒玄関に着き、外を見ると、まだ雨は降り続いている。
屋根の下で雨宿りをしている生徒が何人かいるのがわかった。