君にたくさんのありがとうを
「もう少し待った方が……」
「いいんだよ、この時間の方が人少なくて歩きやすいだろ?」
躊躇する詩織をなぐさめながら、靴を履き替えて手をさし伸ばして、手招きをする。
「ほら、おいで」
「……でも」
「ほーらっ」
「わあっ」
なかなかこちらへ来ない詩織の手を引いて、抱き寄せた。
俺の胸の中にすっぽりと埋まった詩織。
危なかった。
思わず、抱きしめてしまいそうになった。
「ご、ごめんっ……」
「積極的だね、詩織」
そんな冗談を口に出してしまう。
これは俺の照れ隠しだ。
「違っ!これは神代くんが引っ張るからっ!」
「ごめん、ごめん」
俺がドキッとしたように、詩織もドキッとしてくれていたら嬉しいと思う。
そんなら都合のいいことは、さすがにないか。
勝手にそう考えて、肩を落としてしまった。