瞳の中の住人
木崎綾音.3
カランコロン、カランコロン。真鍮の澄んだ鐘の音がした。
高校から帰宅すると、決まっていつも親の経営する店『Komorebi』でコーヒーを飲みながら文庫本をひらく。座る席は入り口から見て左手側の奥まったテーブル席だ。
自分だけの世界に没入しながら、活字の羅列を目で追っていると、ふいに本のページに影が落ちた。
そばに立った人物を見上げて、笑みをうかべる。つい五日ほどまえに書店で会った白石刀哉が、同様に微笑み、会釈した。手には分厚いハードカバーの本をかかえている。
「貸していただいた本、ありがとうございました。初っぱなからわくわくして、とてもおもしろかったです」
読んだ本を返しに来た彼と、自然と相席をすることになり、私は読みかけの本にしおりをはさんだ。
普段なら読書を中断するのをきらう私だが、不思議といやに感じない。その理由をあげるとすれば、彼が兄と似ているからだ。
「また別の本も貸しましょうか?」
「はい。ぜひ」
嬉しそうに頷く彼の手前に、オーダーしたコーヒーが運ばれる。店員がそばに立ったままでなかなか立ち去らないので、顔をあげた。ニヤニヤした顔つきで伯父がお盆をかかえていた。
「きみ、綾音の彼氏かい?」
「……え」