瞳の中の住人
「ち、違うわよ、そんなんじゃないから! 伯父さんはあっち行ってて!」

 私が兄以外の男性とこうして話すのが、よほど珍しいのだろう。カウンターで仕事をする母と伯父が、意味深な視線を交わし、いまだににやついている。

「ごめんなさい、急に変なこと」

 その場を取りつくろい、私は手元に視線を落とした。「いや」と白石刀哉が返事をする。

 彼には本の話題とは別に兄のことも尋ねたかったのだが、どう切り出せばいいのかわからない。

 白石刀哉がカップを持ち上げ、コーヒーを口にした。少しのあいだ沈黙につつまれた。

「あの」

「はい」

「少しだけ。兄の話を聞かせてもらっても、いいですか?」

 おずおずと視線をあげて、白石刀哉の顔を初めてまともに見た。眼鏡のおくに見える彼の虹彩も茶色で、幾分ハッとする。

「あの。どうかしましたか?」

「ああ、いえ。白石さんも茶色の目をしているな、と思って」

 白石刀哉の顔が不自然にかたまる。左右に泳がせた瞳から狼狽が感じとれた。どう反応すればいいのか迷っているのだ。

 私は羞恥心から顔を赤くした。

「すみません。あなたの目が兄と似ているので驚いてしまって」
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