瞳の中の住人
「そう、ですか」

「兄は。バイト先ではどんな感じでしたか?」

 再び目をあげて、彼の瞳をじっと見た。彼はコーヒーカップを皿に置き、視線をそらした。

「真面目でしたよ、とても。勤勉だし、人当たりもすごく良くて。それに……もててた、かな」

「そうなんですか」相槌をうちながらやっぱりと思ってしまう。

「実際、大学で告白されているのを目撃してしまったことがあって。でも、翼さんは誰にたいしても断っていたんじゃないかな。たぶん……」

「そうですか」

 返事をしながら、気持ちが暗く、打ち沈むのを感じた。

 白石刀哉はおそらく知らないからだ。兄にはアルバイト先に彼女がいた。

 二ヶ月前の葬儀で初めて声をかけられ、少しだけ雑談をした。彼女は浅海(あさみ)唯花(ゆいか)と名のり、兄と付きあっていたと言った。

「綾音さんの話を聞いたことがあります」

 唐突な物言いに、え、と反応が遅れる。

「子供のころ、神社の裏山に秘密基地をつくったこととか。あと、カレーのにんじんについて力説したこととか」

 なつかしいな、と思った。そのころの兄を思い出し、自然と顔がほころんだ。
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