瞳の中の住人
 じっと注視しすぎたせいだろう、白石刀哉が私の視線に気づいて「あ、これ?」と時計に目を向けた。

「素敵な腕時計ね」

「ありがとう。今年、二十歳(はたち)の祝いに親からもらったんだ」

「へぇ。もうお誕生日がきたのね、いつ?」

「うん? 六月だよ、六月七日。綾音さんは?」

「まだよ。十二月だから」

 十二月、とつぶやき、彼はハッとした。

「もしかして、二十六日?」

「え。そうだけど……え? なんで?」

 不思議に思って尋ねると、白石刀哉は「いや」と言ってぎこちなく笑い、「まえに翼さんから聞いたような気がしたから」と答えた。

 どんないきさつで聞いたのかは気になるが、兄から聞き及んでいたのなら納得がいく。

「そうなの。十二月の二十六日だから……クリスマスの翌日で。子供のころはクリスマスとお誕生日をいっしょにされるのがいやだったわ。唯一、兄だけがプレゼントを別々にくれたの」

 たわいのない会話をかさね、私と白石刀哉の距離が近づいたからかもしれない。彼は本を返すついでに彼自身の話を聞かせてくれた。初めてのことだった。
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