瞳の中の住人

木崎綾音.4


 兄を亡くして数日を経た深夜。

 母と伯父から盗み聞いた話によると、生前、兄は“めばちこ”ができたために眼科を受診していた。

 そのさい、病院に置いていた眼球移植のパンフレットに興味をひかれ、提供者になろうと決めたそうだ。

 初対面のころから白石刀哉に兄の面影を感じていたのはなぜか。ようやく納得のいく答えが見つかった。

 彼の体で、今も兄の眼が生きているからだ。この事実を知った今、私は今後、彼にどう接すればいいのだろう。

 生前の兄を恋愛対象として好きだった。

 そして、白石刀哉には兄以外の男性で初めて好意をいだいているのだと、うすうすだが感づいている。

 兄の眼を持っているから惹かれているのか、彼自身に安らぎを感じるからそうなのか。正直なところわからない。

 彼の目を見つめて平常心でいられるだろうか。あの茶色の虹彩に兄を想起して、またつらくなるかもしれない。自信がなかった。

 白石刀哉に会わなくなって、二週間が過ぎた。いつもの日課を放り出し、『Komorebi』へ寄り道をしなくなった。

 自室にこもってひたすら読書に没頭する。彼と雑談する時間がなくなると読了の冊数がふえた。
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