瞳の中の住人
 振り返ったさきに、エプロン姿の浅海唯花が立っていた。ゆるやかにウェーブした髪を一つにまとめ、目元のきりりとした美人だ。

 生前、兄とお付きあいをしていた相手に、私は無言で会釈した。

「なにか本を探しているのよね。よかったら手伝うわよ?」

 浅海唯花は親切心から言っているのだとわかった。当然だ。かれこれ一時間以上も店内を歩き回っていたので、見るに見かねて声をかけてくれたのだ。

「あの」

 これを機に、私は白石刀哉のシフトについて尋ねようと思った。

 兄との交流関係で最近会うことがあったのだが、連絡先を知らないためにアルバイト先まで出向いたのだ、と丁寧に説明するも、浅海唯花は怪訝な顔をするばかりだ。反応がかんばしくない。

「悪いけど。そんな人うちでは働いてないわよ?」

「……え」

「私、翼と同じ大学で同じ学科だから、彼氏の友人関係については把握してたつもりだけど。白石さんて人とは交流がなかったんじゃないかな?」

 そうなんですか、ありがとうございます……頭のなかでなぜという疑問詞がうずまくなか、私は彼女に礼を述べていた。

 白石刀哉にたいして、初めて不信感というものが芽生えた。彼は初対面のとき、たしかに言ったのだ。翼さんと同じ書店で働いている白石といいます、と。
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