瞳の中の住人
 できれば口にしたくなかったのだが、兄が亡くなったことを言い、返す手立てがないのだと伝えた。

「あら、そう……」

 声と表情で女性がこちらに同情していると察した。「そのご友人の方は?」と訊かれるので、白石刀哉の名前を告げた。

 少しの待ち時間を言い渡され、女性が奥へと離れていく。スチール製の収納棚から分厚いファイルを取り出し、なにかを確認していた。

「その生徒さんなんだけど。来年の四月まで休学届が出されているわね。学部は工学部みたいだけど」

「そうなんですか」

 ありがとうございます、と一礼をして受付をあとにした。

 大学を出て駅までの道を歩いていると、ふと子供のはしゃぎ声が聞こえて辺りを見回した。

 歩道に沿うようなかたちで植え込みがつづいていて、声はそのおくから聞こえた。

 自分の身長ほどの木々を見つめ、その切れ間まで歩く。公園らしき広場だった。

 中央に水しぶきをあげてきらめく噴水があり、その周辺で小さな子供が三輪車に乗って遊んでいる。親とおぼしき大人がそばで見守っていた。

 こんなところ、あったんだ。行きにも通ったはずだが全く気づかなかった。

 幸せそうに笑う親子連れから遠ざかり、白石刀哉のことをかんがえた。

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