瞳の中の住人
 白石刀哉は休学届を出していた。おそらくは怪我を理由としてだろう。この大学に籍を置いているというのは本当だった。

 兄と友人関係にはなかったと言った浅海唯花の言葉を信じるならば、白石刀哉はなにを目的として兄の弔問に現れたのだろう。

 兄からもらい受けた視力にたいするお礼を伝えたかったのだろうか。

 私たち遺族にたいして自分がレシピエントであると言い出しにくいために、あえて友人だったと嘘をつき、兄に手を合わせに来たのではないか。

 このかんがえが一番有力だが、それならばなぜアルバイト先が同じだったと嘘をついたのか。

 そもそも兄と交流がなかったのならば、兄と私にかんする思い出を知っているわけがない。

 兄と白石刀哉はリアルではない付きあい、たとえばインターネット上のSNSを通じて交流があったのかもしれない。

 どこか釈然としない気もちはあったが、そのかんがえに行きついた。

 私の方から白石刀哉に会う手立てはなく、完全に手詰まりとなった。

 そう自覚すると、予想以上に落ち込んだ。

 以前のように実家の喫茶店でコーヒーを飲みながら、彼とたわいない会話をする時間が、私にとってどれほど貴重であったのか。会えなくなって初めて思いしらされた。

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