瞳の中の住人
「ええ、まぁ。学部は違ったんですけど、同い年だし。大学とバイト先がいっしょだったので」

「そうですか」

 四十九日までに弔問にこれなかった彼の事情が気になったが、好奇心で尋ねるのは失礼だ。そう思い、それ以上の質問は避けた。

 仏壇のある和室に通して、彼が二つの遺影と対面する。一つは何年も前に亡くなった祖父のものであり、もう一つは私の兄、木崎(きざき)(つばさ)のものだ。

 写真のなかの兄は幸せそうに笑っていた。柔らかそうな茶髪をお洒落に整え、二重の双眸(そうぼう)がゆるやかな弧を描いている。 

 この澄んだ茶色の虹彩が大好きだった。一度だけ本人にも、その瞳が好きだと伝えたことがある。

 ふいに綾音、と名前を呼んでくれた声まで思い出し、鈍い痛みが胸のあたりに充満した。

 細い枯れ枝みたいな線香から独特の香りが立ちのぼる。

 重い沈黙のなか、合掌を終えた白石刀哉がしばらく兄の顔を見つめ、視線を上下左右にさまよわせた。どこか感慨深そうな様子で部屋のなかを見回し、嘆息をもらす。

「あの。弔問が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
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