瞳の中の住人
 夜の睡眠では長い夢が上映され、昼のうたたねではコマーシャルほどの短い夢が上映された。

 白昼夢は一日に数回訪れるので、不用意に外出することもできず、自転車などの乗り物にはまったく乗らなくなった。

 夢と現実の二重生活はなかなかおさまらず、ただの睡眠障害ではないのかもしれないと、徐々に不安をいだきはじめた。そのころには、術後、ひと月を経過していた。

 漠然とした不安は僕を行動に駆りたてた。

 夢に出てくる『彼』の生活様式をまねて、実際に確認することにした。

 『彼』の在学する学科の授業に紛れ込み、『彼』の働く書店にも行った。大学の授業では思ったとおり眠ってしまったが、『彼』の友人にかんして情報を得られた。

 夢の世界が現実に存在すると(さと)ったのは、『彼』の暮らす店舗併用住宅をこの目で見たからだ。

『彼』の親が経営する『Komorebi』という喫茶店も、『木崎』としるされた表札も、実在するものだった。

 もちろん、今までにきた覚えもない。会ったこともない。にもかかわらず、僕が『彼』の目をとおして見る風景を夢で知らされるのは、奇妙でならない。
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