瞳の中の住人
白石刀哉.2
ドナーについて調べているあいだも、白昼夢は頻発し、夜の睡眠でもかわらず『彼』の夢はつづいていた。
僕に移植された『彼』の眼球が、視神経をつうじて脳に直接映像をおくっているのだ。
夢が眼球にのこされた記憶だと気づいてからは、ただ見るだけにとどまらず、詳細をノートに記録するようになった。
自分でいうのもなんだが、記憶力はいい方なので過去に見てきた夢もさかのぼって記録した。そうして気がついた。
『彼』の視界で圧倒的に出演しているのは、妹の木崎綾音だ。
大学の友人やアルバイト先の仕事仲間も出ていたが、『彼』が見たいという意欲をもって出てくるのは、綾音だけだった。
仲の良い兄妹だから、綾音と過ごす時間も多く、そのぶんエピソードもほかより多いのだ。
子供のころの記憶から、ふたりで神社の裏山に秘密基地をつくったり、同じ部屋でテレビを見ながらお菓子を食べたり、漫画を読んだりして過ごすことが多かった。
ある晩、夕食として出されたカレーライスのやりとりも興味深かった。
妹の綾音は小学生で七歳ぐらいだ。カレールウのなかに入ったにんじんが食べられないのか、それだけをよけて残していた。