瞳の中の住人
毎晩の夢で木崎翼の人生をのぞき見て、その情報をふやすたびに、僕のなかである感情がむくむくとふくれあがっていた。
実際には会ったこともないのに、夢で知ったからといって、『彼』の私生活に干渉しようなんてどうかしている。けれど、どうしても会ってみたくなったのだ。
僕は『彼』の視線をつうじて見る綾音に、いつしかファンのような心理をいだくようになっていた。
だからといって、馬鹿正直にそのままのいきさつを話すわけではない。ただの自己満足なのだ。『彼』にかんする情報はもっているのだから、偽りの友人を演じるなど、たやすいことだ。
カランコロン、と喫茶店の扉についたドアベルが鳴る。
今までずっと無音だった世界に初めて音が入った。「いらっしゃいませ」と店員に声をかけられる。翼と綾音の家族だ。好きな席に座るよう促される。
真正面は八席のカウンターだ。おだやかな暖色系の照明がふりそそぎ、香ばしいコーヒーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
サイフォン式で淹れているらしく、丸底フラスコのガラス容器に黒い液体がたまっていくのが美しい。
実際には会ったこともないのに、夢で知ったからといって、『彼』の私生活に干渉しようなんてどうかしている。けれど、どうしても会ってみたくなったのだ。
僕は『彼』の視線をつうじて見る綾音に、いつしかファンのような心理をいだくようになっていた。
だからといって、馬鹿正直にそのままのいきさつを話すわけではない。ただの自己満足なのだ。『彼』にかんする情報はもっているのだから、偽りの友人を演じるなど、たやすいことだ。
カランコロン、と喫茶店の扉についたドアベルが鳴る。
今までずっと無音だった世界に初めて音が入った。「いらっしゃいませ」と店員に声をかけられる。翼と綾音の家族だ。好きな席に座るよう促される。
真正面は八席のカウンターだ。おだやかな暖色系の照明がふりそそぎ、香ばしいコーヒーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
サイフォン式で淹れているらしく、丸底フラスコのガラス容器に黒い液体がたまっていくのが美しい。