瞳の中の住人
僕は左手側の奥まった席をめざした。思ったとおり、ひっそりとかくれるように読書をする彼女の顔が見えた。
夢では何度となく見てきたが、実在する木崎綾音に小さく感動を覚えた。
「あの。翼さんの妹の、綾音さんですよね?」
彼女の読書の邪魔をするようで申し訳なかったが、思いきって話しかけてみた。
「そうですけど」
顔をあげた彼女が、声を発した。予想とは違ったが、おちつくようなハスキーボイスで心がふるえる。もう少し話してみたくなる。
僕は白石と名のり、翼と同じ書店で働いていると嘘をついた。その方がある程度は親しい仲であると思ってもらえるからだ。
手前の空いた席をさして相席を申し出ると、すんなりと了承を得られた。
「妹さんのことは写真で一度見せてもらったことがあって。あ、あと、ご自宅でされているこの喫茶店のことも翼さんから聞いていて」
「はぁ」
「その。事情があって二ヶ月も空いてしまったのですが。翼さんに、お線香をあげさせてもらってもいいですか? 告別式には出れなかったので」
夢では何度となく見てきたが、実在する木崎綾音に小さく感動を覚えた。
「あの。翼さんの妹の、綾音さんですよね?」
彼女の読書の邪魔をするようで申し訳なかったが、思いきって話しかけてみた。
「そうですけど」
顔をあげた彼女が、声を発した。予想とは違ったが、おちつくようなハスキーボイスで心がふるえる。もう少し話してみたくなる。
僕は白石と名のり、翼と同じ書店で働いていると嘘をついた。その方がある程度は親しい仲であると思ってもらえるからだ。
手前の空いた席をさして相席を申し出ると、すんなりと了承を得られた。
「妹さんのことは写真で一度見せてもらったことがあって。あ、あと、ご自宅でされているこの喫茶店のことも翼さんから聞いていて」
「はぁ」
「その。事情があって二ヶ月も空いてしまったのですが。翼さんに、お線香をあげさせてもらってもいいですか? 告別式には出れなかったので」