瞳の中の住人
 瞬間、胸の奥にきりりとした痛みがはしった。

 ただ会ってみたいという僕のわがままだけで、弔問客として訪れたことを、今さらながら後悔していた。

 綾音は兄の死を今でも悼んでいるに違いない。

「あの。弔問が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」

 翼と付きあいがあったという嘘にも気がとがめ、僕は深々と頭をさげた。持参した香典を渡し、早々に退去することになった。
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